吉田冨三記念館だよりNo.7号 -005/016page
3.食べすぎを避け、脂肪はひかえめに‥ネズミの実験で、えさの量を60%に制限すると発ガン率が低くなり、長生きします。脂肪の取りすぎは乳がん、大腸がんや前立腺がんなどになりやすくなります。
4.お酒ははどほどに‥粘膜の細胞に傷をつけ、口腔がん、喉頭がん、食道がんに関係します。
5.たばこはすわないように‥一日25本以上吸うと、喉頭がんでの死亡が90倍以上、肺がんでの死亡が7倍になります。男性では肺がんは、1998年には胃がんを抜きがん死亡の第一位となっています。
6.食べ物から適量のビタミンと繊維質のものを多く取る‥ビタミン類には、発がん促進物質の効力を低めがんの発生を防ぐ作用があり、緑黄色野菜などをたくさん食べることで、肺がん、膀胱がん、喉頭がん、胃がんなどにかかりにくくなります。食物の繊維質は、大腸のはたらきを活発にして、便が腸にとどまる時間を短くし、繊維成分が腸内の発がん物質の濃度を薄めるので、大腸がんにかかりにくくなります。
7.塩辛いものは少なめに、あまり熱いものはさましてから‥塩分をひかえると胃がんの死亡率が確実に下がります。また、熱い茶がゆをよく食べる地方には食道がんが多い傾向があります。
8.こげた部分はさける‥魚や肉を焼いて焦がすと、アミノ酸が変化して発がん物質ができます。
9.かびの生えたものに注意‥ピーナッツやとうもろこしにつくかびは強い発がん性物質を生産します。
10.日光に当たりすぎない‥紫外線ががんを誘発します。
11.適度にスポーツをする‥ストレスなどによる生理機能の低下はがんにつながります。
12.体を清潔に‥皮膚がんなどの予防になります。以上の12か条を守って生活することは、ガンの予防にとって大切です。この12か条の内容は全て、DNAに、すなわち、遺伝子に傷を付けないように注意しましょうということです。
生活環境中にはさまざまな形で発がん物質が存在しています。タバコの煙や食べ物に含まれる化学化合物のいくつかは、体の中に取り込まれると酵素の働きで、DNAに結合する物質に変化します。細胞が分裂して二つになるときに、DNAも複製されて、それぞれの細胞に分配されます。化学物質の結合したDNAは複製されるときに、その結合部分で間違えが起こり、A、G、T、Cの並び方が変化してしまいます。この変化が遺伝子の領域内で起これば、変異遺伝子ができてしまいます。また、脂肪を取りすぎると、体の細胞の中で活性酸素が過剰に作り出されて、DNAの塩基を酸化します。紫外線は直接DNAに作用して塩基を変化した形にします。これらの化学的に変化した塩基を持つDNAもその複製のときに、変化した塩基の位置で間違いが起こります。これが発がん物質によってDNAに傷がつくということです。12か条は、これらDNAに傷を付けるような機会をできるだけ少なくし、傷を付けるような反応をできるだけ抑えるようにしましょうと注意しているわけです。
がんと遺伝子
我々は様々な臓器の細胞が正常に働いて生きてゆけるわけですが、ヒトの体は全部で60兆個の細胞でできているとされています。遺伝子の変化がこれらの細胞のどれか1個に起こると、その細胞は増殖のコントロールができなくなって勝手に分裂を始めてその数を増やすようになります。これが肺の細胞であれば肺がんの始まりです。数の増えた細胞のどれか1個にさらに新しい遺伝子変異が加わると、もっと勝手に増殖する細胞になります。このような過程を繰り返して最終的には、他の臓器に転移し勝手に数を増やす悪性のがんになり、ヒトに死をもたらすことになります。このようにがんの形成、悪性化は多段階的に複数の遺伝子における変化の蓄積でもたらされるわけです。
それでは、3−4万個存在するとされるたんばく質を作り出す遺伝子のなかで、傷がつくことによって細胞のがん化をもたらすのはどのような遺伝子なのか、重要な問題です。手術で患者さんから取り出されたがんには、細胞のがん化開始から悪性のがんに至るまでの歴史が刻まれています。どのような変異遺伝子がいくつ蓄積しているかを知ることができれば答えが得られるはずです。我々も、塩基配列の変化を簡単に知ることのできる技術を開発しながら、この間題に取り組みました。しかし、患者さんそれぞれのがんに蓄積している遺伝子の変化をくまなく明らかにすることはまだ技術的に難しいことです。しかし、このような研究努力の結果、肺がん、胃がん、 大腸がんなどの様々な臓器のがんで頻繁に異常を示す遺伝子がどのようなものであるのかが大分明らかにされ、細胞がん化のメカニズムの大筋もわかってきています。