機関誌創刊号「しおめの海」 -004/008page
卵から育てる水族館
「アクアマリンふくしま」の展示生物準備施設は、平成9年3月から稼働しています。
これまでの水族館建設は、まず水族館の本体工事、いわゆる八―ド面を優先し、施設の完成後に展示生物を準備する例がほとんどでしたが、私たちは、
・飼育研究を積極的に行い、その成果を展示する
・地域の生物情報を収集し、それに基づいた展示を行う
ことを基本とし、水族館準備を行うことにしました。飼育研究は、他の水族館施設でも例のない、飼育の難しい生物に対する飼育技術の開発と、生物の水槽内繁殖(展示生物を卵から育てること)に精カ的に取り組んでいます。
飼育下で生物が繁殖するということは、その生物にとって適した環境づくりができた証になります。また飼育下での繁殖で得られた情報は、自然環境の保全と、そこに生きる生物の保護に役立ちます。
飼育技術の開発
●サンマ
サンマは、黒潮と親潮の両方を回遊して生活し、潮目(潮境)付近が好漁場になるなど、「アクアマリンふくしま」の展示テーマ『潮目の海〜黒潮と親潮のであい〜』によくマッチした魚です。また、地元小名浜港は全国でも有数のサンマの水揚げ量を誇っています。
そこで、私たちは何とかサンマの展示ができないものかと考えました。サンマは、魚屋さんでは当たり前に売られている魚ですが、水族館で長期間にわたって展示している例はありません。
これは、飼育がとても難しいこと、寿命が1年程度と短かいことなどによります。
そこで、1.稚魚の収集・輸送実験、2.水槽での飼育実験、3.小名浜沖のサンマ卵調査と採集、4.水槽内での繁殖実験、5.累代飼育の実験、6.展示実験に取り組むという飼育研究計画を立てました。
飼育する際は、サンマが水槽の壁面に衝突しないように水槽の壁に網目模様を書いてみたり、水槽の色を変えてみたり、さらには水温に変化をつけたり、水流、餌、照明を検討したりと、いろいろな実験を繰り返しました。
その結果、平成9年7月には世界でも初めてという 水槽内繁殖に成功し、平成10年には飼育日数485日という記録をつくりました。また累代飼育にも成功し、現在4世代目の「海を知らないサンマ」が孵化をはじめています。
サンマの飼育実験に関しては、アクアマリンのオープンまでに解決しなくてはならない問題がいくつかありますが、青いウロコを輝かせ、美しく泳ぐサンマたちの勇姿を多くの皆さんにご紹介できるよう、頑張ります。
流れ藻に付着しているサンマ卵の採集(小名浜沖)