機関誌創刊号「しおめの海」 -006/008page

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長旅をしてきた魚たち

「手に汗握る」とは、このよう店瞬間なのかと思いがよぎります。早く、そして無事に、この魚を水槽へと胸が高嶋ります。
これは、「アクアマリンふくしま」の展示生物収集のため,昨年後半から今年にかけて行った「メジロザメ」や「アカシュモクヴメ」、「カツオ」、「キ八ダ」たちの、手に汗握る搬送記録です。

前例なし、マ二ュアルなし

 鹿児島、高知から福島まで、行程1,000km以上にも及ぶ生物のトラック輸送は、これまで前例もなく、マ二ュアルなどもありません。現場で即断が迫られることばかりです。経験と勘、センス、そして少しばかりの運だけが頼りです。

 今回は私たちの思いと精一杯の努カが通じたのか、すべての生き物を無事にストックヤードに搬入することができました。また、今後の収集輸送への自信 にもつながりました。

 今回の成功は一人の努力で達成できたものではありません。

 「漁師さん」や「いけす」の管理人さん、輸送トラックの運転手さんなど、たくさんの人たちの熱意と努カに支えられた成果です。

生き物の採集

 生物の採集には、地元の漁師さんの協カが必要です。

 釣りから刺し網など、毎晩のように試行錯誤を繰り返し、ようやく採集することができます。生物は簡単に取れるものではありません。特定の魚を特定の時期に採集することは、とても難しいものです。

一睡もせず

 生物の採集がある程度できると、「いけす」から生物を引き上げ、トラックに乗せて輸送がはじまります。輸送中は、昼も夜もなく、先行きの水温の変化を予測して急激な変化が生じないよう細心の注意を払わなければなりません。

 フェリーを降りれば、後はアクアマリンのストックヤードにまっしぐら。輸送の状況は、逐一ストックヤードの責任者に連絡します。そこでは、たくさんの職員が首を長くして待っていて、連絡情報をもとに水槽の準備や水温調整を行っています。

 昨今はインターネットや通信販売が盛んとなり、電話で依頼すれば、簡単に生き物が手に入る時代になりました。

 生き物の飼育は、マ二ュアルどおりに進めても担当者の意気込みやエ夫次第で全く違ってきます。苦労して採 集した「生物」と簡単に手に入れた「モノ」とでは、同じように愛情をかけているつもりでも、愛情のかけ方が違ってきます。不思議なことに、自分たちで採集し てきた生物の方が長生きするようです。

Can'tではなくCanへ!

 フィ-ルドは、新人飼育係にとって、格好の研修の場となります。学校を出たばかりの職員には、見るものすべてが新鮮で、「生き物」に接しているときの目の輝きはデスクワークでは決して見ることができません。日々の作業を通して成長していくその姿は、たくましくもあり、また、ほほえましくもあります。

 生物を採集して輸送するためには、「漁師さん」への信頼と「生き物」に対する飼育担当者の情熱、そして何としても生物を搬入するという強い意気込みを持つことが大切かもしれません。

 私たちは、一連の生物搬送から「できない(Can’t)ではなく、できる(Can)ように実行する」ということが、成功につながったと思っています。

 最後に、採集や輸送でお世話になりました皆様に心よりお礼を申し上げます。

(飼育展示課 薦田 章)

メジロザメ
メジロザメ(Carcharhinus plumbeus)

「いけす」から引き上げ

輸送への準備

トラックに乗せる


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ふくしま海洋科学館の許諾を受けて福島県教育委員会が加工・掲載しています。