機関誌第3号「AMFNEWS」 -003/008page
く成長したサンマを仮にウロコが落ちないようにうまく採集、輸送ができても、その後の寿命は長くないということです。
飼育困難生物実験施設の完成
平成9年2月、飼育困難生物実験施設が完成し、ここで県内の生物分布調査、飼育生物の繁殖、そしてサンマの飼育実験が始まりました。「アクアマリンふくしま」が開館する2年以上前からこのよな実験施設を準備するのは、ふくしま海洋科学館が単に珍しい生物を並べる施設ではなく学術的裏付けをもち、その成果をわかりやすく紹介することに力を入れたからです。
この施設はプレハブ1階建て、10トン円形水槽を2基、30トン円形水槽3基を中心に5トン角形水槽3基、1トン円形水槽2基を備え、飼育海水は隣接する水産試験場から流れ出る海水を使用しました。
サンマの飼育研究開始
高知県でのサンマ稚魚採集
サンマを何処でどのようにして入手するのか、いろいろと検討し、情報を集めた結果、2〜3月に高知県で椎魚が採集できる可能性があることがわかりました。
しかしこれは、毎年捕れるというものではなく、前年はたくさん捕れたという情報でした。
サンマの稚魚ならば網を使用せずに、水ごとすくえるかもしれません。また輸送も小さな容器で行えます。寿命についても問題はありません。
以上の理由から、さっそく高知県の定置網に乗船して採集することにしました。しかし、平成9年は前年とは異なり、サンマ稚魚は少なく、目標の300尾に対してやっと50尾を採集できたにすぎませんでした。この50尾は、岸近くの細かい網目の生け簀に一時収容し、餌づけて体力の回復を待った後に輸送することにしましたが、採集時に受けたダメージや餌づかない等の原因で、最終的に残ったのは17尾でした。
サンマ稚魚の輸送
サンマの稚魚が300尾採集できた時は、活魚トラックで輸送することを考えていましたが、3〜5cmのサンマ17尾を大きなトラックをチャーターして運ぶ のは効率が悪いということで、酸素パックして航空便で送ることにしました。酸素パックとは、魚と海水をビニール袋に入れて酸素を詰めて輸送する方法です。
サンマは光による刺激に対して敏感に反応するため、酸素パックしたビニール袋を更に黒い袋で包み、発泡スチロール箱に入れて保温しました。サンマの酸素パックによる輸送は、もちろん初めてのことなので正直言って不安でした。航空便による生物の輸送は、時間を短縮でき、その日のうちに水槽に収容できる利点がありますが、遊泳性の強い魚類を狭いビニール袋に半日以上入れておくのは、相当なストレスを与えます。
活魚トラックによる輸送は、ある程度の遊泳面積がありますが、輸送時間が長サンマの酸素パックくなるため一長一短があります。
平成9年3月24日、2個の大きな発泡スチロール箱に詰められたサンマは福島空港に到着後、直ちに飼育困難生物実験施設に運ばれ、10トン円形水槽に搬入されました。無事に到着したのは12尾でしたが、この日からサンマの飼育研究の第一歩が始まりました。
サンマの酸素パックサンマの飼育
10トン円形水槽は、直径が3.0m、水深が1.0m、水量約7.1トンあります。水槽水は濾過槽へ1時間に約7.2トン送られて循環し、水槽へは新しい海水を1日に約4.8トン注水しました。水温と飼料は高知県の生け簀での飼育を参考にして、平均17.5℃、アジ、アサリ、アミをミンチにしたものを1日4〜6回、飽食するまで給餌しました。1日に何度も給餌するのは、サンマはプランクトン食で食い溜めができないと推測したからです。
飼育を始めた当時は、給餌する際に全個体を識別して摂餌状況や行動を確認しました。
飼育してみると、サンマが光に敏感に反応することがわかりました。特に水槽照明の点灯または消灯時に驚いて水面から跳ねたり、水槽壁面に衝突したため、60Wの常夜灯だけの照明にしました。
また、窓からの日差しにも反応するため、窓を遮光し、水槽の水面から上の部分にカーテンを付けたりと神経を使いました。この他にも水槽内に水流をつける等、少しでもサンマを落ちつかせる工夫をしました。
世界で初めての飼育下繁殖に成功
飼育したサンマはその後順調に成長し、7月には全長が20cmを越えました。そして飼育開始後103日目に水槽内での産卵が確認され、稚魚が誕生して世界で初めての水槽内繁殖に成功しました。
この初代高知原産サンマは翌年の1月に最後の1尾が飼育日数284日で死亡しましたが、この間に数々の飼育資料を残してくれました。
次号では小名浜沖でのサンマ卵採集と累代飼育についてお伝えします。
飼育展示課 (津崎 順)