機関誌第4号「AMFNEWS」 -004/007page

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水温を保っています。
現在「ホトケドジョウ」は、環境指標生物としてクローズアップされつつあります。
これは、ホトケドジョウが住む環境がクリーンであるからです。1995年2月にホトケドジョウは環境庁のレッドリストで絶滅の危機に瀕している種に指定されてしまいました。

 原因としては、……

1、湧水が枯れてしまった
2、三面コンクリートになってしまい水草がなく単調な迷い流れになってしまった
3、生活排水の流入などによる水質悪化などが考えられます。
 このような原因はいずれも人間にあります。

 ホトケドジョウは人間にとって特に利用されることのない小魚です。
 しかし、その姿が見られなくなってしまうことは悲しいことであり、一つの種が環境の中から消えてしまうと生態系全体にも大きな影響が出て、取り返しのつかないことになりかねません。

 皆さんの周りでこの小魚、「ホトケドジョウ」を見つけることができたならばその場所は水がきれいなところでもあるのです。
是非皆様もホトケドジョウのすめる環境を見つめ直してください。

 (飼育展示課 倉石  信)

ヒトと潮目の海の歴史(第二回)

The Spirit of God Dwelling in Driftages by Takashi Makabe

漂着神

漂着した木片
▲漂着した木片 driftages

 『昔あったんだっち−磐城七浜昔ばなし−』(佐藤孝描 編著)に漂着物をモチーフとした昔話が載っています。

 火事で焼けた寺を、大時化(おおしけ)の後に漂着した流木を使って再建したという話、海岸に漂着した仏像を薬師仏として信仰し、その御堂の建設にも流木を使ったという話などです。
実際、福島県浜通りの海岸線を歩いてみると、流木、魚の死骸、浮き、ペットボトルなど多種多様なものが漂着しています。さて、昔の人々は、その漂着物をどのように意味付けたのでしょうか。

 前述の著書の中に、次のような昔話も載っています。烏が山の方から来た場合だと不吉だが、海の方から飛んできて、夜、鳴くと浜に鯨やイルカがあがるなど、村内によい出来事が起こるというものです。これはどういうことなのでしょうか?

 この昔話の裏側には、海の彼方、水平線の先に神の国があり、そこから神神がやってくるという神降臨(こうりん)の思想が感じられます。これが出発点となって、漁民達の信仰心が芽生えていったと考えられます。

 「海の彼方の神の国」「漂着物」「海の幸(海産物他)」等のエッセンスが混ざり合えば、浜辺に打ちあげられた物(流木や石、弁当箱のフタ、白鳥や亀、海藻、酒樽、時には仏像など)が神へと変化し、漂着神伝承となって語られるようになったのも理解できることです。

 このような漂着神伝承は日本の沿海地方に広く分布しています。

「浜下り」の風景
▲「浜下り」の風景
 HAMAORl,event

 浜通り地方にも、前述したような漂着物が御神体となっている神社がいくつもあり、毎年、または何年かに一度、漂着した海浜に御神体が戻る「浜下(はまお)り」の神事が執り行われています。
例えば、いわき市平管波の大国魂(おおくにたま)神社では、豊間の海岸近くの川に漂着したものが御神体になっています。
そこでは、3年に一度、豊間の浜に神輿を渡御(とぎょ)し、それを豊間の漁師たちが担ぎ、海に入って、潮垢離(しおごり)をとるという形で「浜下り」が行われ、神の蘇生・復活を祈願するのです。
「海」は人々に様々な恵みを与え、時には災害や事故をもたらします。この漂着神伝承は海から恩恵を受けてきた人々が、「海」に対して、大きなエネルギーを感じ、その恵みに期待し、祈る気持ちから現出したものではないかと思います。

 さて、話は変わりますが、8月上旬、いわき市四倉海岸でアカウミガメの産卵が確認されました。
産卵の北限が茨城県の海岸から北上したわけですが、このアカウミガメの骨はすでにいわき市の大畑貝塚や寺脇貝塚から発掘されています。
つまり縄文時代にもこの地域まで北上し、捕獲され、食べられていたようです。
しかし中国から神仙(しんせん)思想が伝来してからは、亀は海神の使いであり、豊漁をもたらす生物として、特に黒潮域の沿岸の人々に解釈され、漂着した死骸が御神体になっているケースもあります。
つまり俗信では「亀の出現」は「豊漁の前兆」と考えられていたようです。その俗信が、この秋、サンマ漁をはじめとして、実際の漁獲高に結びついてほしいと願わずにはいられません。

 (学習交流課 真壁 敬司)


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