機関誌第5号「AMFNEWS」 -002/007page
ろいろな文献を読むと、サンマは暖流海域(太平洋側では黒潮)で産卵し、その後北上して寒流海域(太平洋側では親潮)で大きく成長し、再び産卵のために南下するようです。
産卵シーズンは秋から初夏といわれていますが、これは1尾のメスが産卵する期間ではなく、日本周辺海域のどこかで夏以外に産卵しているサンマ群があるということです。
例えば5月下旬〜7月上旬は福島県沖、秋には常磐沖、冬には鹿児島県沖で産卵するグループがあります。そこで産卵期を調節するにあたり次のような仮説をたてました。
1、暖流と寒流で生酒するサンマは、水温に対する適応範囲が広い⇒ある程度成長した段階で水温を下げて飼育しても問題は生じない。
2、寒流海域から暖流海域に入り産卵する⇒成長した後に水温を上げると、それが刺激となって産卵する。
3、産卵シーズンが長い⇒サンマの産卵は季節が限定されない。これらの仮説を基にいくつかの実験をすることにしました。
A 水温を下げずに高いまま飼育する。
B ある程度成長した段階で水温を下げて飼育する。
C ある程度成長した段階で水温を下げ、一定期間を経てから水温を上げる。実験の結果は、Aでは孵化後わずか180日後に産卵をはじめました。Bの実験では、性成熟した大きさに達しても産卵はしませんでした。Cは水温を15℃以上に上げると産卵することが確認できました。これは15℃以上の海域の流れ藻でサンマ卵が見つかるのと一致します。
▲飼育水温とサンマの産卵日
Water temperature of breeding tanks and demanded time(days)for spawn以上のことから、サンマの産卵をコントロールするには、水温を調節すればよいことがわかりました。
具体的には、半年程度で産卵させるには孵化後高い水温(20℃以上)で飼育する。任意の時期に産卵させるためには、10cm程度までは18〜20℃で飼育し、その後時間をかけて2週間に1℃程度)徐々に水温を10〜12℃まで下げて飼育する。
この水温で飼育すると性成熟した大きさ(全長25cm程度)であっても産卵を抑制でき、水温を再び15℃以上に上げると産卵する、というものです。もちろんサンマの寿命は約1年程度ですから、いつまでも産卵を抑制できるわけではありません。
この方法を応用して、同じ兄弟のサンマ群を2つのグループに分け、一方は6ヶ月後に産卵、もう一方は9ヶ月後に産卵するように調節することが可能になりました。
また、これまでの飼育観察結果から、産卵を始めたサンマのメスは数日毎に産卵し、3〜4ヶ月間産卵が続くことがわかっていましたから、一年中サンマに産卵させることができるようになるのも夢ではありません。
しかしこの結果を得るまでに3年近くかかりました。オープンまでに残された時間は刻一刻と迫ってきました。
▲産卵床に産みつけられた卵
Clump of eggs spawned on substituteサンマ展示の問題点
サンマの飼育技術については、ある程度の経験を積むことができました。
しかし問題はこれからです。サンマは神経質な魚で、動くものに特に敏感に反応して水槽壁面に衝突したり、飛び出したりします。
自然海でプランクトンを食べているサンマは、食物連鎖の中ではマグロなどの大型魚にいつも狙われる、どちらかというと弱い存在です。警戒心が強いのも無理のないことです。
予備水槽の中での彼らの行動を見ると、水面上の人間に対しては、それほど警戒しないものの、小さなガラス面からそっとのぞいただけで一斉に反応します。本館サンマ展示水槽のガラス面は大きく、しかも多くの人達がサンマを見るわけです。完成した水槽の前で、どのようにしたらサンマが落ちついた状態で展示できるのか、頭を抱えてしまいました。
行き詰まったサンマの展示
サンマを落ちついた状態で展示するには、サンマから観覧通路の人間が見えなければいいわけです。
しかし人間からサンマは見えるけれど、サンマから人間が見えない方法などあるのでしょうか。ここで以前に、チンアナゴ(ガーデンイール)が砂に潜って頭を出さない時や、干潟で生活するトビハゼを脅かさないように展示するためにマジックミラーを使ったことを思い出しました。
マジックミラーは、水槽内を観覧通路より明るくすると、水槽の外からは魚が見えますが、水槽の中からはガラスが鏡のようになります。神経質な動物を展示する際には最適です。
しかしこれにも致命的な欠点がありました。水槽の中を明るくすると、ガラスは茶色い藻類で汚れるということです。
ブラシを水中に入れて掃除をすると、それだけでサンマは驚いて狂乱状態になります。あと3ヶ月でオープンという頃、展示方法を巡って行き詰まってしまいました。
次回はサンマ展示の成功についてお伝えします。
(飼育展示課 津崎 順)