機関誌第5号「AMFNEWS」 -004/007page

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ルムをガラスに貼りました。こうしてやっと展示水槽でイカナゴを飼育することができるようになりました。

 次の問題は、イカナゴが砂の中へ潜ってしまう習性をどうするかです。

自然海ではイカナゴは15℃以上になると砂中へ潜り夏眠します。そこで夏でも水温を15℃以下に抑えれば、砂の中へ潜らないだろうと考えました。
しかし、イカナゴは単に水温を調節しただけでは砂の中に潜らなくなるわけではありませんでした。これでは空っぽの水槽を展示していると誤解されてしまいます。
観察をつづけると、照明を点灯すること、餌を与えることが刺激になって砂の中から出てくることがわかりました。
そこで餌のアルテミア(ブラインシュリンプ)を終日水槽内に注入することにし、1時間ごとに自動給餌機を使用して配合餌料も与えるようにしたところ、全個体が完全に砂に潜ってしまうことはなくなりました。

 お腹がいっぱいになると泳ぐ個体数が少なくなるという点に改善の余地はありますが、イカナゴの砂に潜る習性を紹介するためには、砂から頭を出している姿を展示することも必要です。ですから、この水槽を見るポイントは、砂の上です。

 みなさんも砂の中から頭を出しているイカナゴをぜひ探してみてください。

(飼育展示課 山内 信弥)

ヒトと潮目の海の歴史(第3回)

Dried bonito "Katsuo-bushi" by Takashi Makabe

力ツオブシ

魚市場に並べられた鰹
▲魚市場に並べられた鰹
 bonitosatafish market

 「勝男武士」この語句を何と読むか、おわかりでしょうか?実はこれで「カツオブシ」と読みます。

 「カツオブシ【鰹節】」と言えば、ご存じの通り、味噌汁のダシ、冷奴などに欠かせない日本独自の調味料です。

 古来より、海産物は冠婚葬祭、年中行事の慶事の供物に使われてきた歴史があり、この「カツオブシ」も、「寿留女」(スルメ【文字】 )や「子生婦」(コンブ【昆布】)とともに、本来とは異なった漢字で表現され、縁起物になっています。今回はその鰹節の歴史を中心に、紹介します。

 鰹と日本人とは付き合いが古く、縄文時代の貝塚からも骨が発掘されており、奈良時代の納税品の中にも、鰹と思われる品が見られます。
当時は、魚を生で食べず、干物にして食べていたと考えられます。まして、この魚はいたみが早いので、堅くなる位まで干したものが流通していたのでしょう。
ですから、「堅魚(カタウオ)」と表現され、それが変化して「鰹(カツオ)」になったと思われます。
この「堅い魚」が、一層堅くなり、現在の鰹節に近い形になったのが、約300年前の江戸時代中期。土佐において紀州出身の甚太郎という漁師が鰹をカシなどの広葉樹で燻したのが始まりと言われ、ここに「食用」の鰹から「調味料」である鰹節へと変化したとされます。
そして土佐から紀州、伊豆、房総へと製造方法が伝播し、明治時代に入って全国へと普及しました。
現在、鰹節生産は、鹿児島県が全国の約60%、静岡県が約20%、残りの20%は、高知、和歌山、三重、千葉等で、西日本の太平洋側の地域に多いと言えます。

 鰹は暖水域に分布し、大回遊する魚です。三月頃、沖縄近海に現れ、7〜8月頃には餌となるイワシ、オキアミ等の豊富な常磐・三陸沖へと移動し、秋の海水温低下とともに東北地域から南下する習性を持っています。
鰹節製造には、油含量1〜3%程の油の少ない鰹が最適なので、東北地域に北上する前に漁獲し、鰹節の材料にしているのです。
つまり、そこに、西日本の太平洋沿岸地域に鰹節の生産が多い理由があり、鰹節は、まさに黒潮の海の恵みであるとも言えるでしょう。

鰹節製造
▲鰹節製造 making "Katsuo-bushi"

 福島県においては、いわき地方に、江戸時代後期より鰹節製造があり、明治時代には、焼津の技術を導入し、品質改良が施され、「磐城節」として、各地に流通しました。
しかし現在、当地方での鰹柵即製造はいわき市江名の1軒のみで、近くの中之作漁港に水揚げされる鰹を材料にしています。生切り、煮熟、焙煎、削り等、何段階もの細やかな作業を経て鰹節が完成するのですが、6月から11月位までの長い期間を要し、製造が小規模の場合、ほとんどが手作業で、重労働でもあるのです。

 このように鰹節には古い歴史があり、高度な製造技術や時間を要するからこそ、神への供物に見合うだけの価値のある物とされ、慶事の縁起物として喜ばれるのでしょう。

 しかし、私達がその味覚を楽しむのは、ほんの一瞬です。一瞬であっても鰹節の有無が「おいしさ」を左右するといっても過言ではないでしょう。
日本人の「おいしさ」にはこの味覚が刷込まれているのかもしれません。皆様も、是非、和食を見直し、鰹節を様々な料理に利用してはいかがでしょうか。

 また、当館ではカツオを黒潮大水槽で展示し、市場に並ぶ様子とは違った、生きた姿を見ることができます。
そして、ワークショップでも鰹節についての内容を1月から始めています。
鰹、鰹節について、詳しくお知りになりたい方は、是非、当館にご来場し、その様子をご覧頂ければ幸いです。

(学習交流課 真壁 敬司)


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