機関誌第6号「AMFNEWS」 -002/007page

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 サンマ飼育水槽はこれまで円形のものを使用し、強い水流をつけていましたが、展示水槽は四角形をしていて、水流の強さもポンプの問題から限度があります。
そこで濾過槽からの循環水配管に手を加え、水中で一定方向に向かって吹き出すようにしました。

 水槽準備ができたところで、いよいよ展示水槽での試験飼育開始です。飼育困難生物実験施設から展示水槽へのサンマ輸送は、エサでおびき寄せてビニール袋にすくい取り、酸素パックにして運ぶことにしました。

 5月下旬、30尾のサンマを展示水槽に搬入しました。
サンマの動きを見ると、ガラス面の人間に対しては怯えないことがわかりました。
しかし、観覧通路にある解説パネル照明近くに人が通ると一斉に反応します。
やはり人間の姿が見えると落ち着かないようです。
またガラスをたたくと反応するものがいます。
そこで解説照明下〜ガラス面に柵を設置することにしました。
また数日後に行方不明のサンマがいることが確認されたため、徹底的に調査してみると、小さなすき間から飛び出して、循環水とともに濾過槽に落ちていることがわかりました。
急いで細かい目のネットを取り付けましたが、予想外のことが次々とおこりました。

 展示成功


展示水槽の4,5世代目のサンマ
▲展示水槽の4,5世代目のサンマ
school of Pacific Saury of 5th generation in aexhibit tank

 試験飼育終了後、3週間かけてサンマを徐々に増やし、6月下旬には三300尾のサンマを展示水槽に搬入しました。
サンマの群れの動きが安定せず、その原因がわからないため一喜一憂することもありましたが、無事7月15日の開館時には4世代目のサンマを展示することができました。

 水槽の前では、テレビや新聞の報道から「サンマは飼育が難しくて、これが世界で初めての展示なんだって」とか、「サンマの泳ぎ方って、こんなだったの」と驚く声を聞くことができ、これまでの苦労を忘れさせてくれました。

 サンマ展示の意義

サンマの水揚げ(小名浜港)
▲サンマの水揚げ(小名浜港)
haul of Pacific Saury(at Onahama port)

 サンマは誰もが知っている大衆魚ですが、これまで水族館では展示されませんでした。
サンマは飼育が難しいから展示できなかったということも事実ですが、今まで水族館はどちらかというと珍しいものや色鮮やかなものなど話題性を重視してきたからともいえます。
しかし、日本人にとって貴重なタンパク源である水産生物を、珍しくないから水族館で研究したり展示しても意味がないと考えることは間違っています。
むしろ、これからは、自然の恵みである水産生物を将来にわたって利用し続けるには、どのように環境問題を考えなくてはならないのかを、わかりやすく解説したり警告する必要があります。

 サンマ展示の成功は、珍奇な生物の話題だけを追い求める施設から、身近な生物で新しい発見ができる施設を目指す当館の姿勢を示すのに一役買いました。

山吹き色の尾ビレをもつサンマ

 サンマの繁殖を観察していた時の事です。
産卵床に近づくサンマの中に尾ビレの付け根付近が鮮やかな山吹き色に変化している個体を見つけました。
繁殖行動をしている全てが変化しているわけではありません。オスまたはメスのどちらに現れるものなのか、さっそく捕まえて調べてみると、オスにもメスも現れる事がわかりました。
更に観察を続けると、これは繁殖行動が盛んな時にだけ現れて、ピークが終わると再び元の色に戻ることがわかりました。

 なぜこのような変化が特定の個体に現れるのか、どのようなサインなのかは、もう少し研究しなくては答えはでませんが、飼育すればするほど新しい疑問が出てくるものです。

 サンマ飼育を振り返って

 水族館の開館準備をする際は、水槽を作って水を張り、魚を購入すれば完成すると考える人がいます。
しかし敢えて私たちは開館3年以上も前から、サンマを展示することにエネルギーを注いできました。
世界で初めての前例のないことにチャレンジするには、集中力とこれを持続する莫大なエネルギーが必要でした。

 人間の都合だけで仕事するのではなく、生物の状態に合わせることを飼育係のわがままと誤解されたり、ポケットマネーを出し合ってサンマのエサを探し歩いたりすることもありました。
また成功するかどうかわからない状況の中で、過度な期待に対して不安を抱くこともありました。

 現在5世代目のサンマも展示に加えていますが、サンマの繁殖技術はまだまだ安定せず、同じ作業をしても稚魚が全滅することもあり、展示を継続するには3年前と少しも変わらないエネルギーを必要としています。
このエネルギーを持続できるか否かが今後のサンマ展示にかかっていますが、精一杯頑張りたいと思っています。

 今回のサンマ展示は、多くの皆様の協力と励ましがあったからこそ成功したものと思います。この場を借りてお礼を申し上げます。(完)

(飼育展示課 津崎 順)


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