機関誌第7号「AMFNEWS」 -003/007page

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海の生活誌(第1回)

潜り漁

 Diving fishing by Takashi Makabe

潜り漁の様子
▲潜り漁の様子
Scene that diVe to catch and sea urchin

アワビを採る道具
▲アワビを採る道具(鹿角製尖頭器)
Abalone crowbar

ホッケの卵
▲ナサシを持ってアワビを採る様子(『明治12年水産旧慣調』より)
Catchlng abalone with a abalone crowbar“Nasashl"

 5月1日、いわき市周辺では、ウニ、アワビ漁が解禁になります。この漁は5〜9月までに限られ、漁業権は各採鮑組合が持ち、組合員にのみ、潜りによる採取が許されています。先日、その1人である小名浜下神白の馬目秀男氏に話を伺いました。

馬目氏は昭和17年生まれ。この潜り漁は世襲により受け継がれ、馬目氏も17歳から、漁を始めました。起床は、午前3時頃。5時30分に、港に出向き、6時30分、小型和船で組合員が一斉に出漁します。採取量はウニ13Kg、アワビ20個で、小さいものは採取しないと決められており、約1時間で作業が終わります。
現在はウエットスーツにフィン、空気ボンベを使用しますが、馬目氏が潜り始めた昭和30年代頃は 褌一つと海中メガネのみの素潜り漁でした。
当時は一息4〜50秒、水深3〜5m位までの潜水で、採取量も限られていました。また、体も冷えるので、浜に戻って、暖をとり、休みながら午後2時まで漁をしたそうです。
しかし、昭和40年代後半から、現在のような器具が使用され、ウニ・アワビが無制限に採られました。加えて、海岸線の変化もあり、資源量が減少し、様々な規制により管理され、今に至っています。

 馬目氏のように、海に潜り、ウニやアワビ、サザエ等を採取する人をアマ (海女・海士) と呼びます。青森から沖縄まで、ほぼ全国に分布し、日本海側では北陸地方、太平洋側では千葉県安房、静岡県伊豆、三重県志摩に集中しています。1996年の三重県の調査によれば、志摩において、約2100人が潜り漁を行っていると報告しています。

 では、アマには、どのような歴史があるのでしょうか。『魂志倭人伝』(3世紀後半)に「人好んで魚鰻を捕え、水に深浅となく皆沈没して之を捕る」 とあり、『古事記』 『日本書紀』にも、アマに関する記事が見られます。
また、『常陸国風土記』 の密筑 (日立市)の項にも、「石決明、辣甲羅、魚貝等の類、甚多し」とあり、近県地域でも潜り漁が行われていたと推測できます。このように古代から、近世、近代と、アマは、様々な史料に記録され、『明治12年水産旧慣調』では、当時の小名浜付近の海士の姿を絵に上ってうかがい知ることができます。

 また、記録ばかりではなく、考古学の視点からも、その歴史を探ることができます。
いわき市小名浜古湊の寺脇貝塚から、縄文時代晩期の鹿角製尖頭器が発見されました。それとともにアワビの穀が多数出土し、形態、使用痕、機能等から考えて、これはアワビをはがす道具と考えられます。普通、アワビは干潮時にあらわれる場所や砂中にはすまず、水面下五〜六m位の岩礁に固く張り付いていることから考えると、この地域でも縄文時代には潜り漁が行われていたと言えるでしょう。

また、最近の研究において、各地の貝塚から発見される縄文人骨に残る外耳道骨腫は、潜り漁によってできたものであり、それが、すべて壮年男性に限られているという報告がありました。
現在、アマの分布の特徴として、日本の中央部では概して海女(女性)が多いのに対して、東北部と西南部では、海士(男性)が多いという傾向があります。日本の中央部においては、海士よりも有利な漁業が発達し、男性がそれに吸収され、その隙間を埋めるように海女が出現したのかもしれません。
実際、いわき市周辺でも、以前、勿来地区で女性のアマがいたという事例はあるものの、ほとんどが男性で、馬目氏も昔から海女はいなかったと話しています。

 このように、古くから行われてきた潜り漁も、近年では、高齢化が進み、馬目氏の属する採飽組合では最高齢者が75歳だそうです。
しかし、体力の続く限り、海に潜ろうとする姿勢には、サラリーマンの職業観とは違った海士の誇りと意気、力強さを感じます。そんな潜り漁を現在に受け継ぐアマたちがいるからこそ、おいしい味覚を賞味できるのであり、また当館においてはタッチングプールで、来館者にウニを触っていただけるのです。

 (学習交流課 真壁 敬司)


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