機関誌第8号「AMFNEWS」 -002/007page

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AMF CURRENT RIP 潮目の海

トビウオを飼う〜飛行する魚〜

Breeding Flying Fish by Shinya Yamauchi

ツクシトビウオ(幼魚)
▲ツクシトビウオ(幼魚)
Juveniles of flying fish
学名 Cypselurus heterurus

 船の甲板から海を眺めていると、突然海中から飛び出して海面ギリギリを滑空し、船から遠ざかって行くトビウオを目撃することがあります。その翼を広げて飛ぶ姿は、一見鳥のようにも見えますが、よく見ると翼ではなく大きな胸ビレと腹ビレを広げて飛行していることがわかります。トビウオのなかまが海面上を滑空するのは、何かに驚いたとき(走っている船など)や、外敵に追われて逃げるときの行動だといわれ、種類によっては300mも飛ぶことが知られています。

 トビウオの飛行の秘密は、大きな胸ビレだけではなく尾ビレにもあります。トビウオの尾ビレは二股になっている下側が著しく長くなっており、空中へ飛び出す際の大きな推進力を生み出しています。
また、飛んでいるときに尾ビレを使い方向を変えていることも観察されています。トビウオは体の中にも飛ぶための秘密があります。トビウオの消化器官には、胃袋がなく、消化器官が直線的で消化したものをすぐに排泄することができます。つまりトビウオはエサを食べて体が重くなって飛べなくなることはなく、常に飛ぶための軽い体を維持しているのです。
トビウオのなかまは、世界の海に約50種類、日本近海では6属29種類が知られ、いずれも暖海域に広く分布しています。福島県沖では黒潮の影響が強まり、水温が20℃以上になる7月〜10月に見ることができます。

トビウオの飼育展示

孵化直前の卵
▲孵化直前の卵
Egg befor hatching

 私たちは1999年より、黒潮に乗ってやってくるツクシトビウオの人工授精を6〜7月に行い卵から育てる飼育試験を続けてきました。人工授精は定置網で穫れたツクシトビウオの卵と精子を船上で採取し、海水を入れた容器の中で受精させる湿導法でおこないました。ツクシトビウオの卵の大きさは直径1.7〜1.9mm、卵の表面全体にてん絡糸と呼ばれる糸がたくさんあります。自然界では、トビウオのなかまは流れ藻などの漂流物に卵を産み付けますが、てん絡糸は漂流物に絡みつく役割が あります。人工授精した卵は用意した漁網に絡めました。

 人工授精をおこなった卵は、平均水温20℃で約15日で孵化しました。孵化したばかりの仔魚は全長約6mm、トビウオの特徴である胸ビレはまだ発達していませんが、1週間ぐらい経つとトビウオらしくなってきます。今年6月に、人工授精したツクシトビウオの稚魚は、孵化後1ヶ月で全長約cmほどに成長しました。トビウオのなかまは、飼育が難しい魚種の1つです。特に成長したトビウオは飛ぶ習性が顕著に現れ、水槽の外に飛び出したり、壁面に激突するなどの事故が発生します。他にも飼育上のいろいろな問題がありますが、アクアマリンふくしまではトビウオの展示をはじめました。

(飼育展示課 山内信弥)


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