福島県植物誌 -000-69/483page

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発刊によせて

 近年あちこちの県で植物誌が刊行され,日本全国の植物相がしだいに明らかにされていくことは日本の学術, 文化,教育の上での大きな貢献となり,はなはだ喜ばしいことである。福島県でも県内の植物研究科の間で植物誌 作製の気運が盛り上がり,植物誌編さん委員会が結成され,5ヵ年計画のもとに発足し、ここに完成をみたことは うれしい限りである。
 どの県の植物誌を見ても、地理的位置による生態学的な環境に応じてそれぞれの特色がある。福島県は奥羽地 方の最南部にあり、東は太平洋に面し、西は日本海側に伸びている。日本の植物区系上、浜通りと中通りは関東 地域に、会津地方は日本海地域に入り、県内の東と西とで、植物の種または同一種内の変種の間でそれぞれ住み わけがなされているものが少なくない。また植物区系に応じて、生態学的にも日本の温帯林を代表するブナ林は 中通り以東は太平洋型気候区のスズタケ−ブナ林、会津地方は日本海型気候区のチシマザサ−ブナ林となって、 2つの群団にはっきり分かれている。福島県を北限地とする植物は138種類にも達し、その多いことでは全国でも 有数であろう。奥羽と関東という住持の行政上の区画は自然をもとにしてなされたことは植物にもよく現われて いる。浜通りに勿来の関、中通りに白河の関があり、関所は昔の旅人ばかりでなく、植物にとっても通過は容易 でなかったらしく、興味がもたれる。福島県を北限とする植物の中には、白河市からいわき市にかけての山野に とどまり、それより北上しない植物がとくに目立つ。
 福島県は北に磐梯朝日国立公園があって、甲子山、旭岳、那須山の一部である三本槍岳、尾瀬、燧岳がそれに はいる。それらの地域には全国的にも珍しい植物が多く、またよく保存されていて、福島県の植物祖を一層豊かな ものにしている。
 福島県は岩手県につぎ日本第2位の広い面積を有し、そのうえ山岳が多く、高山は奥羽地方に標高2,000メートル を越えるものが7つもあるうち、第1位の燧岳(2,346)をはじめ5つを占める。また近年交通の便がよくなった とはいえ、まだ僻地が多く残され、末踏の山も少なくない。植物誌編さん委員会の皆さんは忙しい公務をもちながら、 多くの苦難を克服して福島県植物誌を発刊されたことに対し、心からのお祝いと敬意を表したい。
 最後に私ごとながら、旧制白河中学校当時の恩師、小林勝先生ならびに父、鈴木貞次郎の遺志が実現し完成されたことは まさに感無量である。

鈴木 貞雄

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