福島県植物誌 -008/483page
鈴木はヤナギ類とササ類については特に関心が深く,大沼郡金山町太郎布で変ったヤナギを見つ け,それを白河に栽培し開花したものを木村有香に送り,Salix × shirakawensis Kimura(1937) と命名された。あとで西白河郡古関村(現,表郷村)でそれと同じものが見つかったことから和 名はコセキヤナギとなった。また,ササの研究中西白河郡西郷村馬立(現,新甲子温泉)で,そ れより東の太平洋側にミヤコザサ節,それより西の内陸にチマキザサ節というようにササの系統 が変わることに気がっいた。それがきっかけとなって,長男貞雄とともに馬立から北と南へ,ミ ヤコザサ節とチマキザサ節の入れかわる地点を調査し,ついに青森県から上越国境の浅間山まで の間のミヤコザサ線を発見した(あとでその線は南は山口県まで,北は北海道根室まで続いてい ることがわかった)。鈴木が福島県で発見したササの新種は15種にのぼるが,鈴木貞雄によって 多くのものが他種に統合され,次の4つが種または変種に残された。 カワウチザサSasa suzukii Nakai(1935), アサカネマガリS.subvillosa S.Suzuki(1964), ヨモギダコチクArundinaria amoena Nakai(1934)→ Sasaella masamuneana(Makino)Hatsushima et.Muroi var.amoena(Nakai)S.Suzuki(1976), ケスエコザサArundinaria kanayamensis Nakai(1934)→ Sasaella leucorhoda(Koidzumi)S.Suzuki var.kanayamensis(Nakai)S.Suzuki(1976)。鈴 木の足跡は県内各地に及ばないところなく,後に小林勝と共著で「福島県植物誌」を著した。
猪苗代町在住の長尾景厳は,猪苗代湖天神浜に打ちあげられている球形のコケ塊を福島県天然 記念物調査員であった斎藤知覧に届けた。斎藤は三好学に送り,三好はこれをマリゴケと称し,検 名のためオランダのVerdoornに送り,さらにイギリスのDixonに転送された。 これはDicranella squarrosa(Stark.)Schimp.の一変形で,f.submersa Dixon(1934)とされ,ミズス ギゴケと呼ぶことにした。1935年天然記念物に指定された。高橋源三は1936年猪苗代湖畔を 採集し,「猪苗代ニ産スル毯苔ノ発見並ニ其成困ニ就テ」を発表し,前記マリゴケ にはAnisothecium squarrosum(Stark)Lindb.f.submersa(Dix.)Sakurai et G.Takahashi,また新に発見 したマリタイにAplozia nipponica Sakurai et G.Takahashiイナワシロウロコゴケ ,f.globosa Sakurai et G.Takahashiクマウロコゴケと命名した(現在はヒロハツボミゴケに統合されてい る)。
桜井久一は1912年尾瀬地域を,1929年には磐梯山付近を採集した。桜井の尾瀬採品で, Scapania atrata Warnst.,S.oseensis Warnst.,S.spathulatifolia Warnst.,S.undulata Dum. var.Subdenticulata Warnst.,Chiloscyphus submersus Warnst.がWarnstorfによって記載され た。また桜井の採品によってReimersは1931年に尾瀬産蘚類を18種あげている。