福島県植物誌 -029/483page

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数85の等値線は,気候的には冷温帯と暖温帯,また水平的森林帯では常緑広葉樹林帯と落葉広葉 樹林帯,そして垂直的森林帯では丘陵帯と山地帯を分ける線として注目される。吉良(1949)は また,ブナの分布域とスダジイの分布域とが接していない場合について,温かさの指数が85を超 える所でも寒さの指数が−15を下まわる所ではスダジイは成育せず,また,寒さの指数が−10を 上まわらないとスダジイ林の成立は見られないとしている。寒さの指数とは,各月の平均気温の うち5℃以下のものだけについて,それぞれから5を引いた値を積算したものである。温かさの 指数が85を超え,寒さの指数が−10を下まわる地帯ではブナもスダジイも成林せず,性格のはっ きりしない気候的極相をもつ。このような森林を,吉良(1949)は暖帯落葉広葉樹林と呼んだ。

図15 福島県における暖かさの指数及び寒さの指数の垂直分布。
図15 福島県における暖かさの指数及び寒さの指数の垂直分布。

 図15は,福島県の気象庁関係の各測候所の資 料により温かさの指数と寒さの指数を計算し, 標高との関係をみたものである。温かさの指数 が85になるのは,概して400m〜500mのあた りになる。また,寒さの指数が−10になるのは 標高およそ100mのあたりになる。したがっ て,標高100m以下にスダジイ林が成立し,400 m〜500mから上部にブナ林がみられ,その間 に暖帯落葉広葉樹林がみられるはずである。

3)中間温帯をめぐる植生の実態

 植物群落は遷移と呼ばれる一種の発達過程をもち,その最終段階の安定相を極相という。極相 は,急峻な斜面とか排水のよくない低湿地など地形的に特殊な所ではその地形的特徴を強く反映 したものになる。しかし,ゆるい山地の斜面など中庸な地形の所ではその地の大気候的特徴を反 映したものになる。前者を地形的極相,後者を気候的極相という。森林帯は気候的極相によって 認識される。

 ところで,我が国のように古くから強度の土地利用がなされてきた所では,山野をおおう植生 のほとんどは人為の影響を強くとどめ,極相を知る手がかりは極めて少ない。ごく稀に残存して いる自然林も多くは災害防備保安林として残されたもので,地形的極相を知る手がかりを与えて くれるだけである。気候的極相は,尾瀬のような奥山の一部を除けば,現在の日本の植生の実態 からすると,社寺林や屋敷林の一角から想像的に結ぶことのできる一種の理念像としてとらえら


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