福島県植物誌 -030/483page
れているに過ぎない。
さて,福島県においては中間温帯,ないし,暖帯落葉広葉樹林帯がどの程度の拡がりをみせる ものか,まずその南限,すなわち常緑広葉樹林帯の北限の実態からみて行くことにする。
イ)常緑広葉樹林の輪郭
福島県の常緑広葉樹林帯を丹念に調査し,そ の輪郭を明らかにしたのは吉岡(1954b,1956) である。それによると,スダジイの残存林分は 石城海岸低地の一帯に広く散見される。このス ダジイ林地帯の北の端は,いわき市久ノ浜町末 続(すえつぐ)になる。なお,近年になって原町市江井(えねい)の初 発神社の境内に教本のスダジイが成育している のが知られた。このことから,スダジイは末続 以北でも条件さえ良けれは断続的に小さな林分 を形成すると考えられる。スダジイ林地帯の西の端は,いわき市田人井戸沢(標高60m),いわき 市小川町上小川(同60m)などになる。
図16 末続寺とその境内林(いわき市久ノ浜町)
寺の裏山がスダジイ林になっている。これらスダジイ林にはアカガシも成育するが,アカガシは末続以北にも散見され相馬市に及ぶ。 内陸側への侵入はウラジロガシの例が多く,石城地方では,例えば鮫川沿いに東白川郡古殿町の 東部(標高280m)まで,また,相双地方では,例えば室原川沿いに賀老(標高100m)までみら れるという。近年の調査によれは,スダジイ林内にアカガシとともにふつうにみられるシラカシ は,さらに内陸に及び,福島市信夫山(標高200m),安達郡東和町木幡山の山麓(標高500m)ま でみられる。恐らく,条件さえ良ければ温暖帯の全域に成育するものと思われる。
上記の実態は,さきにのべた吉良説に,概括的にではあるが,よく合致する。すなわち,福島 県域の標高およそ100mまでがスダジイの成育範囲に入り,典型的な常緑広葉樹林帯とみなされ る。それは福島県の海岸沿いの平地及び丘陵の地帯である。そして,標高400〜500mまでが暖帯 落葉広葉樹林帯であり,ここでは,冬季温暖な山懐ではしばしばカシ類の自生をみると概括する ことができるであろう。
ロ)温帯落葉広葉樹林の輪郭
温帯落葉広葉樹林帯の指標は,その地帯に気候的極相として成立しているブナ林である。この ブナ林の分布域の下限が中間温帯林地帯の上限となる。福島県ないし東北地方南部で,このあた