福島県植物誌 -031/483page
表1 ブナ林の下限の林分(樫村 1980より改変) 極相 越後山地 奥羽山地 阿武隈山地 地 名 標高(m) 地 名 標高(m) 地 名 標高(m) 気侯的 横 田 400 舟ヶ鼻峠 720 万太郎山 700 大 岐 420 曽 原 840 蒲 生 440 京ヶ森 850 叶 津 460 三森峠 860 大戸岳 830 名 号 400 地形的 大久保 260 摺上山 430 大 越 460 三 条 380 山田原 490 下守屋 470 りの実態はどうなっているのであろうか。これについては樫村(1980)の追跡がある。すなわち, 東北地方南部に実存するブナ林分のうち,低標高の立地のものを例示すると表1のようになる。こ こでも,阿武隈山地と奥羽山地では,さきにのべた吉良説がよくあてはまり,最低位のブナ林は 標高400〜500mにみられる。ただし,豪雪の越後山地では,これより約100m下降するという実 態もあるようである。しかし,これら最低位のブナ林分は,おしなべて,林床植生としてブナ林 にふつうとされるチシマザサないしスズダケの繁茂を欠き,しかも,林分自体の分布も極めて散 発的である。このような実態は,恐らく,このような低位の地帯ではブナ林は気候的極相として ではなく地形的極相として現われるものであることを物語っている。
典型的な気候的極相として知られている,林床にチシマザサ,スズダケ,あるいはユキツバキ の繁茂するブナ林の下限は,同じ表1にみる通り,阿武隈山地で標高約700m,奥羽山地及び越後 山地で標高約400mになる。ただし,奥羽山地での400mは福島市名号(なごう)の1例があるだけで,他 は阿武隈山地の場合と類似の標高をもつ。ブナ林の下限の高さは,概して東高西低の傾向がある といえるが,この傾向は明らかに積雪量のそれと関連していると思われる。福島県の豪雪地帯は 第1が越後山地であるが,西北方の吾妻山塊もこれに次ぐ雪の多い地域である。すなわち,福島 県は西から北にかけての山地で雪が多く,東の太平洋岸側,及び南の関東平野に近い部分で雪が 少なくなる。前記の福島市名号のブナ林は,名号の集落よりもさらに西寄りの摺上山に近く,米 沢盆地に東接する山地にあって,立地の最深積雪は1mを超えると推定される。奥羽山地でも,そ の東部や南部では,ブナ林の下限は阿武隈山地とそう違わないと考えてよいであろう。
これらブナ林分の分布下限を中間温帯林の分布上限としてみるならば,福島県における中間温