福島県植物誌 -040/483page
イ)スズダケ型ブナ林
阿武隈山地上部の標高700〜800m以上の気候的極相とみられる。昭和35年頃までは,同山地 の主峯である大滝根山の周辺に広大な優良林分の残存がみられたが,その後伐採の手が伸びて全 部が消滅した。現在みられるものとしては,同山地北部の日山や花塚山のあたりに貧弱な二次林 的なものが認められるに過ぎない。それでもなお同山地の上部の自然的特徴を指標するものとし て貴重である。
ロ)チシマザサ型ブナ林
奥羽山地から越後山地にかけて広く分布する。越後山地ではなだれの来ない凸状地に断片的に みられるが,本型よりは後述のユキツバキ型がめだつ。一般に標高700〜800mより上の山地帯上 部にみられるが,豪雪の越後山地では標高400〜500mまで下降する。奥羽山地や三国帝釈山地で はかつては連続的に分布したと思われるが,伐採が進んだ現在では断片的な拡がりを見せる。し かしなお尾瀬や燧ヶ岳,会津駒ヶ岳の一帯には かなり優良な林分が広く残されており,極めて 価値の高い自然地帯を形成している。
ハ)ユキツバキ型ブナ林
越後山地の豪雪の谷間を中心に分布する。こ の地方はなだれ多発地が多くブナ林の成立は概 して困難であるが,なだれの来にくい凸状地と か,広い谷底平面を持つ谷などに断片的に成立 する。浅草岳北東面の沼ノ平はこの点で注目さ れる。この地方のブナ林の多くは林床にユキツ バキが繁茂するユキツバキ型であるが,山頂近 くや,主尾根上には前記のチシマザサ型もみら れる。ここではチシマザサ型はむしろ地形的な ものであり,気候的極相はユキツバキ型と考え てよいであろう。本型のブナ林は,只見川流域 山地の,横田・大塩から奥只見湖の下にかけて 見られる。尾瀬のブナ林はチシマザサ型である (ただし,湿原周辺の平坦部のブナ林林床はオゼ