福島県植物誌 -055/483page
図24 蟹沢湿原のプロファイルと植物の分布(樫村ほか 1981より)有の景観はこの中央部にみられ,周辺部は低層湿原ないしヨシ沼沢がとりまいていることが多い。 中央部の景観の第1は小さな凸状地(小凸地,ハンモック)と小さな凹地(小凹地,ホロー)と が交錯するものである。また,小凸地と小凹地の中間の平坦地(ローン)もみられる。小凹地に は水が溜り,池塘となっていることもある。これら徴地形の形成のしくみについては二,三の説が あるが,はっきりしない。
小凸地にはヌマガヤが繁茂し,イボミズゴケやムラサキミズゴケなどの大型のミズゴケがマッ ト状の群落をつくっている。また,ローンには,尾瀬ヶ原の場合ではキダチミズゴケが平坦なマッ トをつくる。小凹地にはさまざまのタイプの植生がみられるが,もっともふつうのものはミカヅ キグサである。また,ミズゴケではハリミズゴケがよくみられる。これら中央部の植生と周辺の ヨシ群落の問は比較的乾燥する部分で,ヌマガヤが密生するがミズゴケのマットはみられないこ とが多い。夏早くニッコウキスゲの黄花が咲き乱れるのもこのあたりである。
福島県域で高層湿原がみられるのは標高700〜800m以上の山地帯上部以上の地である。とく に雪どけ水によるかん養が考えられる日本海岸側の山地で発達がよい。尾瀬ヶ原のように谷湿原 として発達したもののほか,雪田の一部として発達した山地湿原も多い。福島県域では,特別天 然記念物である尾瀬(南会津郡檜枝岐村)のほか,天然記念物の赤井谷地(会津若松市),雄国沼 湿原(耶麻郡北塩原村),駒止湿原(大沼郡昭和村,南会津郡田島町)がある。また南会津郡南郷