福島県植物誌 -057/483page
図26 尾瀬ヶ原下田代の泥炭プラトー(南会津郡桧枝岐村)
ゆるい傾斜に沿ってバンク(堤状の凸地)とホ ロー(凹地)が交互に発達している。手前の大 きな池塘には浮島がみられる。キンコウカ,サ ワギキョウなどが花盛りである。山の山頂附近は1年を通して主風は西風である が,その風衝は山頂部の地形によって異なり,そ のため雪の積りかたも場所によって異なる。雪 は比熱が大きく,雪被下の植物や土壌は厳冬期 の高山の厳しい温度条件から保護される。積雪 の少ない山頂部ではこのような保護作用が期待 されないため,一般山腹にみられるような森林 の成立は困難になる。このような所には特有の 嫌雪性の植生が成立するが,その典型はハイマ ツ低木林である。
また,とくに風衝の激しい尾根の凸端のよう な所では,雪がほとんど積らず,晩秋や早春には土壌はひんぱんに凍結と融解をくりかえす。こ のため,北辺のツンドラにみるような条線土や階段礫といった構造土の発達をみることがしばし ばある。風衝の激しい所では植生もまたそれに応じて変化する。ガンコウランやミネズオウなど 丈の低い低木群蕗がパッチ状の繁茂をみせるものから,木本類がほとんどなくなって,ムカゴト ラノオ,タカネマツムシソウ,イワオウギといった草本植物が低群度の成育をみせるものまでさ まざまのケースがみられる。
一方,西斜面を吹き上げて来た西風は,尾根を越えた所で急速に速度を失い,尾根直下の東斜 面に多量の積雪をもたらす。この雪は春おそくまで残るため,植物の生育期間が短くなる。その ため樹木類の生育は困難で,湿生の草本植生が成立する。排水のよくない立地では前述の湿原植 生と同じになることもあるが,一般に傾斜地で排水がよいので雪田植生と呼ばれる特別の植生と なる。雪田植生の中心部はハクサンコザクラとイワイチョウの群落である。吾妻山ではハクサン コザクラの代りにヒナザクラがみられる。この 純白の花の咲くサクラソウは吾妻山が分布の南 限で,北限は青森県の八甲田山である。周辺植 生としてはタテヤマスゲ,ヌマガヤなどの群落 があり,カラクサイノデや,ときとしてシラネ アオイなども散生する。また,とくに排水のよ い鉱質土の場合はミヤマキンポウゲやシナノキ