福島県植物誌 -061/483page
用の競走馬しか考えられないが,つい最近までは動力はほとんど畜力によっており,馬産は現在 の原動機産業や自動車産業に匹敵する基幹産業であった。このため,各農家はこぞって馬産に精 を出した。馬の飼料は,今の競走馬のような外来の穀物ではなく,ススキを主とした野草である。 このため,草地経営が盛んに行われ,一部では放牧も行われた。草地経営の内容は,春先きの火 入れと夏季の刈り取りである。現在各地にみられるススキ草地は,この名残りである。ススキ草 地も放置すると自然林にもどると云われているが,密生したススキは,それ自体が遷移の進行を おさえるはたらきがあり,意外に長く草地のまま存続する。
VI 人工植生の概要
わが国は弥生時代以降農耕文明の時代に入り,山野の大部分はそのために開発・利用されると ころとなった。その概要の一つは低湿地の開田である。日本書紀にある「豊葦原(とよあしはら)の千五百秋(ちいほあき)の瑞 穂国(みずほのくに)」という記述はこの間の事情をよく物語っている。開田と堰の建設は気永く続けられ,最後 の開田は終戦後に及ぶ。そして今や水田の前身である低層湿原の自然はほとんど残っていないと いえる。福島県自然環境保全地区に指定されている磐梯町の法正尻湿原,猪苗代町指定の天然記 念物である蟹沢湿原などはこの点で貴重である。
水利のよくない平坦な台地は畠地として利用されている。かつて麦類などの穀類,大豆などの 豆類,それに野菜類を栽培するものが多かったが,今では果樹園,桑畠,牧草畠などが多い。と くに後二者についてはブルドーザなどの機械力によって丘陵地を平坦にするなど,かなり規模の 大きい開発が行なわれている。
また,その他の里山については,傾斜のゆるやかな所で薪炭林や草地の経営が永く続けられて 来た。しかし,現在では阿武隈山地の一部でシイタケ原木の生産が行われているほかはほとんど 放置されている。また,スギ,アカマツなど有用針葉樹の植栽林もかなり多い。一部の国有林で はカラマツも植栽されている。アカマツ林のなかには二次林として再生したと思われるものも,乾 燥性の中部阿武隈の山々にかなりの地積を占めている。
最近増加している人工植生としては,宅地,工場敷地などにみられる緑地があげられる。これ らの植生はさまざまであり,今後の調査が望まれる。
引 用 文 献
石塚和雄,斉藤員郎,橘ヒサ子(1975)月山および葉山の植生,山形県総合学術調査会,124pp.