福島県植物誌 -066/483page
域をひろげ、福島県では中通り地区で両方の節が相会し、1本の境界線を形成する。 その線をミヤコザサ線Crassinodi-lineという(図31)。
ミヤコザサ線が福島県を通過する地点を南か らあげると次の通りである(図32)。栃木県那須 山中腹の大丸温泉から福島県に入り、西白河郡 西郷村新甲子温泉(旧,馬立)―西郷村真名子鶴 沼―岩瀬郡長沼町滝(額取山の東南)―郡山市逢 瀬町休石温泉―郡山市磐梯熱海温泉―安達郡大 玉村大名倉山東側―二本松市岳温泉―福島市土 湯温泉の東、狼が森―土湯と女沼の間―福島市 高湯の東、姥堂一飯坂温泉。それより国鉄東北 本線に沿い北東進し宮城県に入り、越河駅付近 を通過する。
ミヤコザサ線の幅は通常1〜4kmで、ところによって6kmまたはそれ以上あることがまれに ある。その線上ではミヤコザサ節の種とチマキザサ節の種が混生するが、その線より 東側はミヤコザサ節が、そして西側はチマキザサ節がそれぞれ生育し、そのため前者を ミヤコザサ帯、後者をチマキザサ帯という。ところがミヤコザサ帯のなかで阿武隈山系の 霊山(850m)、大滝根山(1,193m)、片曽根山(719m)を中心とし、さらにそれより南の 西白河郡泉崎村烏峠および表郷村犬神にわたるかなり広い地域にチマキザサ節が生じ、 高所ではチマキザサ節だけが、低い所ではチマキザサ節とミヤコザサ節が混生している。 つまりミヤコザサ帯のなかにチマキザサ帯の飛地があることになる(図32)。 このような飛地はほかに群馬県の赤城山の頂上と九州の高山に見ら れるだけで、はなはだ珍らしいことである。
ミヤコザサ線は年最高積雪の極の平均値が50cmの等深線とほとんど一致しており、 すこぶる興味深い。日本の冬の気圧配置はいわゆる西高東低であり、本州の山脈は 東北地方から中部地方にかけては大部分のものは南北に、西南地方ではほぼ東西に走るため、 日本海側に大雪を降らせ、太平洋側では雪が少ない。チマキザサ節は日本海側の多雪地帯が 生育の本場であり、分布域が内陸へ、すなわち太平洋側へひろがるにつれてしだいに 雪が少なくなり、積雪量50cmの地点ではそれが生育の最小要因となってそれ以上東へは 進出できない。それに対してミヤコザサ節は少雪 地帯が生育の本場で、分布域が内陸、すなわち日本海側へひろがるにつれて雪が しだいに多くた