福島県植物誌 -068/483page

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の平均50cmがチマキザサ節(低木)からミヤコザサ節(半地中植物)への生活彩の変化を起こ させる契機となっていることはまさに自然の妙ともいうべきであろう。

ササの葉の隈どり

 ミヤコザサ帯ではすべてのミヤコザサ節の種は冬に葉の縁が白く枯れて隈どる。 それに対してチマキザサ帯ではチマキザサ節のうちクマザサはどこででも隈どるが、 そのほかの種はミヤコザサ線の近くではよく隈どり、それより内方へ向うにつれて 隈どり方がしだいに狭くなって、ある地点に達するとまったく隈どらなくなる。 その地点を結んだ線は年最高積雪の極の平均が75cmの等深線とほぼ一致する。 図34は積雪量と隈どりとの関係を示したものである。

図34 ミヤコザサ節およびチマキザサ節の分布ならびに葉の隈どりと積雪量との関係
図34 ミヤコザサ節およびチマキザサ節の分布ならびに葉の隈どりと積雪量との関係

 しかしここで注意を要することは、積雪量は葉の隈どりと直接の関係がないという ことである。なぜなら隈どる現象は晩秋におこり、本格的な降 雪期の前にすでに完了するからである。それなのにチマキザサ節はミヤコザサ線 付近では葉の縁が広く隈どり、積雪75cmの地点に達するまでしだ いに隈どり方が狭くなり、75cm以上になると隈どらなくなるというように、 あたかもササの葉の隈どりが積雪量と密接な関係があるように見える のはなぜだろうか。それについては積雪量ではなく、空中の湿度がおもな要因であると 考えられる。すなわち最高積雪75cm以上の所は太平洋側では概して標高が高く (1,O00m以上)、したがって秋は冷涼であるため、一度雨か雪が降ると土壌が乾きにくく、 また雲霧が多く空中湿度も高いと思われる。それに対して75cm以下の所は標高が低く、 晴天の日が多く、空っ風も吹くので湿度はずっと低いであろう。 要するに空気の乾燥がササの葉の隈どりを起こさせ、湿度が高いこと はそれを妨げることになるのであろう。実際に低地で葉がよく隈どっている所でも、 谷川の岸辺などしぶきがかかる所や、また温泉の川辺で湯気が立つ所ではほとんど 隈どりが見られない。山の南側の日がよくあたる乾燥地のササはよく隈どり、 日があたらない北側の、とくに谷あいでは同種のササでありながら隈どりの 幅がいちじるしく狭いのがふつうである。


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