福島県植物誌 -070/483page
図36 スズタケ―ブナ林(太平洋側気候区)
岩瀬郡天栄村湯本(1959.5.2)
図37 チシマザサ―ブナ林(日本海側気候区)
福島市野地温泉付近(1984.10.30)して前者は太平洋型気侯区域、後者は日本海型気侯区域とされている。 自然林のブナ林はしだいに減少し、二次林や植林に置きかえられ、阿武隈山系でも 典型的のスズダケ―ブナ林は少なくなった。しかし会津地方では南に日光国立公園、 北に磐梯朝日国立公園があることもあって、チシマザサ―ブナ林は諸所に見られる (図36,37)。
以上のように福島県ではミヤコザサ線、スズダケ線、チシマザサ線が県のおおむね 中央部を3線がたがいにやや接近し、ほぼ平行して通過している。ミヤコザサ線は チマキザサ帯とミヤコザサ帯の境界線として、またチマキザサ節からミヤコザサ節へ の生活形の分化を起こさせる発端として大きな意義がある。スズダケ線とチシマザサ線は 日本のブナ林を2つの群団に区分し、太平洋型気候区と日本海型気候区が一見して 識別できることでこれまた重大な意義がある。それらのこ とは当然福島県の植物区系と密接な関係をもつものと考えられる。
II.福島県の植物区系
前川文夫(1977)は日本の植物区系を9つの区系地域に分け、そのなかで福島県と 関東地方(伊豆諸島、小笠原諸島を除く)を関東地域とされた。一方、日本海地域という のがあり、それは北海道渡島半島から本州の日本海側の全域が入り、 そのなかに飯豊―越後山地が含まれている。この山地の東限ははっきり示されていないが、 もっと東へ伸ばして北は吾妻山、南は旭岳、那須山(北斜面)までとし、 そうすると日本海型気候区のチシマザサ―ブナ群団の全域となり、その方が 自然であろう。つまり福島県は中通りを含めてそれより東方が関東地域、 会津地方が日本海地域となる。