福島県植物誌 -076/483page
単子葉植物
ヤマタヌキラン サッポロスゲ ヒロハイッポンスゲ ヒロハオゼヌマスゲ北方系の植物は山岳地帯と海岸沿いの2つの経路で南下するのが普通である。 東北地方では北海道の東部に端を発する那須火山帯と鳥海火山帯とがたがいに平行して 南北に縦走し、会津の博士山付近で両火山帯が合流し、それより南は富士火山帯となり、 伊豆諸島に達する。そのため福島県では中通りを奥羽山脈が、会津地方を越後山脈が これまた平行して南北に縦走し、関東地方北部の帝釈山脈や三国山脈に続き、 さらに中部地方の山岳地帯に連なる。そのようなことから福島県の中通りと会津の 山岳地帯は地形的に、地史的に、また生態的に関東地方から中部地方にかけて の山岳地帯と関連性が強く、したがって山岳地帯を南下する北方系の植物は福島県を 通り抜けて関東地方や中部地方に達しやすいであろう。そういうことが福島県を南限 とする植物が少ない原因と思われる。北方系植物のうちオクヤマシダやオオイタドリは 福島県からわずかに隣接地へ伸びているにすぎないが、もっと遠くまで南下している 植物がきわめて多い。
海岸沿いに南下する北方系の植物は福島県でとまっているものが1種もなく、 ただ福島県植物誌(1965)にはハマベンケイソウがいわき市四倉と江名海岸にあることが 言己録されている。しかし現在は見つからない。シロヨモギ、ハマギク、コハマギクが 福島県を経て茨城県まで、またハマナスがさらに千葉県銚子まで南下している。福島県固有種
1.ビャッコイ(カヤツリグサ科)Scirpuspseudo-HuitansMakino(Cyperaceae)
本種は明治38年(1905)に牧野富太郎によって植物学雑誌19巻に新種、Scirpuspseudofu itansMakinoビャッコイ、ウキイの名で発表された。それには産地は岩代国戸ノロ原 (G.Nakahara!Aug.1904)および下野国大田原(T.Watanabe!Jan.3,1905)となっている。 この発表によって多くの植物研究家が戸ノロ原と大田原へ押しかけたが、両地とも 誰もビャッコイを見つけることができず、それ以来約50年の間ビャッコイは幻の植物と されていた。ところが昭和28年(1953)頃になって、ようやく一部の植物学者に牧野の 発表の産地と採集者に誤りがあったことがわかり、基準産地は西白河郡表郷村金山瀬戸原 であること、また採集老は鈴木貞次郎と鈴木傳吉の2人であることがはっきりした。 瀬戸原のほかに、不動清水や夜沼など、そのごく近い所には今もよく生育しており、 またすこし離れて犬神への道近くの黄金川沿いにも前にあったこ ともわかった(図38-41)。