福島県水産試験場研究報告 第10号 - 002/073page

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39粒の卵の発生状況は
  胚体はまだ形成されず、胚盤のみが形成されているもの…13粒
  胚体が形成され、その大きさは胚盤を3/4周しているもの…22粒
  胚体が1周と1/4周し、眼胞を形成し始めたもの(眼はまだ白い)…4粒
の計39粒であった。

 産卵場は、日本一小さな港の南地先

 ひと昔前のテレビ番組に、“ぐるっと街道4万キロ”という番組があった。その中で紹介された"日本一小さな港"が福島県の小良ケ浜漁港。

 福島県沿岸のほぼ中央部に位置し、子ギリバの鼻と呼ばれる灯台のある南手に位置し、周囲を断崖絶壁に囲まれた小さな入り江の天然の漁港で、港は小さく3〜5トン未満船が、4〜5隻入る程度で、船の係留岸壁はなく、出港、入港の度に上架施設による船舶の上下架作業が行われていた。港の中央部にワイヤーロープが張られており、入港時にはそれをたぐりながら、丁度車の車庫入れをするようなかたちで、後ろ向きに船が上架されてゆく。勿論、シケの時は入出港不能となるが、まさに天然の良港。

 1987年(昭和62年)2月の調査の時、傭船した漁船の船長が、得意気に話していたのを想い出す。「テレビのロケの時はこの俺の船に鳥羽一郎が乗ってさ....」。鳥羽一郎が漁師の家の出身であることは良く知られている。酒が強かったこと、漁船の操船をまかせて、請戸港に入り停船させたときの、操船の上手さなどなどを...。
しかし残念ながら、この天然の良港(?)も次第次第に波に洗われて、崖の崩落が続き、ついに、1988年(昭和63年)をもって閉鎖した。そして、富岡に新しい港が建設された。

 イシカワシラウオの天然の受精卵は、この港の出口のすぐ南手、水深4〜5mの場所で採集できたのである。(写真−3)は、親魚を採捕するために、その産卵場に投入した刺し網のボンデンと、小ギリバの鼻の灯台である。

産卵場より小良ケ浜の灯台を望む
写真−3 産卵場より小良ケ浜の灯台を望む

 産卵床の観察・底質特性

 産卵場は、風やうねりの大きいときは、船では近づくことが出来なかった。天候を見ながら、ダイバーに乗船を依頼して、底質のサンプリングや観察をしたり、刺し網による親魚の漁獲を実施した。透明度は悪かったが、ダイバーにスケッチして貰った海底地形は(図−1)のようなものであった。

 産卵床は、水深4〜5mの岩礁内にあり、高さが1〜2mの磯と転石の間の中で、下層は3〜5cmの大きさの玉砂利が分布しており、その上は、貝殻片等を多く含むきれいな粗砂で覆われていた。また、卵は、反転した外卵膜によって、これらの貝殻片や砂利等を抱き、この粗砂の中に分布していた。

 こうした岩礁域では、船上から採泥器による底質の採取は困難で、三洋水路(株)の飯島氏の発案によると思ったが、チリトリ型採泥器(我々はこう呼んでいた)を考案し、ダイバーによる採泥を行った(写真−4)。1回当たりの採泥量は、20kg湿泥程度であったが、非常に効率は良かった。


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