福島県水産試験場研究報告 第10号 - 035/073page
考 察
近年の来遊変動状況
北海道〜福島県のサケの来遊および河川遡上は8月上旬〜翌年3月下旬までみらるが、その主な来遊時期は北海道が9月上旬〜10月下旬、青森県が10月上旬〜12月中旬、岩手県が10月上旬から12月中旬、宮城県が10月上旬〜11月下旬、福島県が10月上旬〜11月中旬であり、福島県は比較的早期に来遊する群である6)。これら群の遡上盛期は北海道と東北各県では異なっているが、沖合、沿岸の海況(黒潮勢力の強弱)により、前述の旬がずれることが知られている8)。
1996年以降の来遊尾数の減少は、北海道〜福島県までの太平洋沿岸に接する各地域でみられるが、1990年以降の北海道と東北沿岸の各県の来遊変動の相関は小さく、東北4県間の相関が高い傾向にある。特に福島県は、岩手県、宮城県と相関が高かったことは、東北沿岸・沖合の海況変動との関係も調べる必要があろう。
一方、福島県の12河川の来遊変動は、宮城に流入する阿武隈川、宮城県に最も隣接する宇多川、茨城県に隣接する鮫川は、県全体および他河川との相関が低い結果であったが、県沿岸部の中央部に位置する河川は互いに相関が高く、かつ県全体とも相関が高い結果となった。この要因としては、県中央部に位置する木戸川と請戸川での稚魚放流尾数が県全体の60%を占めていることから、県全体の来遊尾数の変動に大きな影響を与えているものと考えられる。
放流年級と各年魚の相関
県計の各年魚間の相関から3年魚、4年魚の来遊尾数の予測は、相関式から推定可能と考えられるが、5年魚、6年魚は関係式から推定するに至らなかった。しかし、5年魚、6年魚の来遊尾数の予測は、それらの年魚は全体の来遊尾数の17%((71,295+5,151)/439,425)であることから、平均値の定数を用いても総回帰尾数予測への誤差の影響は少ないものと考えられた。この各年魚間の相関からは、2年魚、3年魚、4年魚が多く来遊しないと、次年度の総来遊尾数が少ないことになる。
ある年の放流年級群が高い回帰率を示す指標として、まず2年魚の来遊尾数の多いことがあげられ、早期に放流年級群の歩留まりを判断しえる材料と考えられる。逆の見方をすれば、2年魚が少ないと翌年3年魚も少なく、さらに翌々年の4年魚も少ないという結果が予想され、この放流年級群は河川放流後、福島県沿岸から沖合、沖合から北太平洋の回遊、回帰回遊の中で通常年より歩留まりが悪かったと考えられる。さらに、他県でも同じ放流年級群で同様な傾向がみられれば沖合から回帰回遊までの間の減耗と考えられよう。また、福島県だけが低い回帰率の放流年級群であれば、河川放流から福島県沿岸滞留期までの間の減耗があったと推察されよう。
木戸川と請戸川の放流年級群別の回帰率の相関図を図3に示す。有意な相関はみられなかったが、木戸川の回帰率が最も高かった1982年のデータを除くと、両河川に有意な正の相関(5%以下)となる。このことから、福島県内の河川間においても、河川ごとに放流年級群は、放流直後の減耗に差がみられる年(例1982年)もあるが、総じて県全体の放流後の歩留まりは同調する傾向にあるといえる。
一方、来遊変動が福島県と最も相関の高かった岩手県については、相関係数値が本県のものより低い結果となっているが、3年魚、4年魚の来遊予測は、関係式からも推定可能であろう。しかし、2年魚からの放流年級群の総回帰尾数は予