福島県水産試験場研究報告 第10号 - 043/073page
億円と推定されたことは、ヒラメ水揚げ金から運営資金を負担している漁業者に対して、この事業の意義を示すことができたといえる。
単価率を用いた漁獲金額の推定
1989〜1993年は単価データが未整理のため、前述した方法では直接には漁獲金額を推定できない。そこで放流魚、天然魚別の単価率が季節変動することが認められたことにより、単価率を平均した月ごとの数値(以下単価率平均値とし、ここでは1994〜1996年の単価率を月別に平均した。)と放流魚、天然魚別の漁獲量で漁獲金額(1989〜1993年)の推定を試みた。(放流魚および天然魚の単価率平均値を図6に示す。この数値を基づき放流魚、天然魚別の月別単価が推移するとして推定された漁獲金額を漁獲量および平均単価とともに表3に示す。月別の詳細データは付表4に示す。)
この方法は放流魚、天然魚別の金額データがない場合の漁獲金額の推定方法の1つと考えられる。ただし、基となる単価率が変動した場合(1994〜1999年の単価率はこれに当てはまる。そのため、推定しようとする期間に近い単価率のグループである1994〜1996年で単価率を平均した。)や単価率平均値を算出した時期と単価率平均値で金額を推定しようとしている時期で漁業や経済等の状況が大きく異なる場合などは推定金額の誤差が大きくなることを考慮する必要がある。
この結果、ヒラメの単価が現在より高かった1989〜1991年の放流魚の漁獲金額は1億円前後であったものと推定された。
放流魚の単価が低下した要因
1997年以降、放流魚の単価はヒラメ全体の単価より安値で推移したが、これは1997年に漁獲主体であった1996年級群放流魚6)の採卵時期は4月以降7)で1995年級以前と比較して遅く、飼育初期の疾病による大量へい死が続き、生産が安定しなかった7)ためか、無眼側体色異常(黒化)が顕著であったために、水揚げ時の単価が天然魚より著しく安かったことが第一の要因と考えられる。このように放流魚の体色異常は漁獲金額に影響を及ぼすため、経済的な効果を高めるための体色異常防御技術を確立することが必要である。
また、事業となってからの放流尾数は30〜40万尾から100万尾に増加したため、放流魚がまとまって漁獲された場合には放流魚のみで競られることも多く、その際は天然魚以下の単価で競られる場合もあり8)、その結果、以前より安値で取り引きされた可能性も考えられる。
放流魚の単価率が変動した前後の漁獲量は1994〜1996年が118〜566t、1997〜1999年が529〜698tと重なった範囲で推移しており、単価率でみられたような明瞭な差は認められない。従って、漁獲量の直接的な影響で単価率が変動したとは考えにくい。しかし、漁獲量増加は1994年および1995年の天然魚卓越年級群の漁獲加入により9)、1995年以降で顕著になり、1997年には1994年級群が3歳魚、1995年級群が2歳魚に成長して水揚げされたヒラメ1尾あたりの平均重量は増加したと考えられる。そのため、漁獲主体魚の重量に満たない小型のヒラメは、天然魚も放流魚も単価が低下したと推測される。このような状況が放流魚と天然魚の単価に差が生じさせた可能性も考えられる。
過去に推定された放流魚推定漁獲金額