福島県水産試験場研究報告 第10号 - 070/073page
データ内挿法は異なるものの東北海区全体で同様の解析を行っており、1980年付近に正のピーク、1984年付近に負のピークが認められ、その変動要因は黒潮続流、親潮第1分枝の大循環系の変動の影響によって引き起こされているとしており、本解析と同様であった。スコアと黒潮等の位置との関係からは、親潮第1分枝に連なる冷水の南限緯度との相関係数がより高かったことから、当県沿岸域での影響は、黒潮系暖水より親潮系冷水の影響がより強いものと思われた。
2.第2主成分
事例解析から、沿岸部での黒潮続流の位置は、正の年が37°N付近、負の年が38°N付近であった。正年は、三陸海域に暖水塊や沖合からの暖水波及、また、三陸南部には小規模な冷水域が存在した。負年は、沿岸域まで黒潮系暖水に覆われ、小規模な暖水域が存在した。当県の鉛直水温図からは、南北シーソー変動に関連する明確な事例は見いだしにくいが、鉛直塩分図からは比較的明瞭な事例が得られた。例えば、正年(1991年6月)では、富岡、鵜ノ尾埼定線の下層に低塩分水が見られ、県中、県北海域まで親潮系冷水の差込、または停滞があったと推測される。負年(1989年6月)は各定線とも同じような分布様式だが、塩分では塩屋埼定線より富岡定線で沖合から黒潮系暖水の波及が見て取れる。水温のみでは把握しきれない事例であり、今後深部までの解析にも注意する必要がある。さらに、事例解析の結果を裏付けるようにコンポジット解析からは、正スコアが大きい時期は三陸中部から常磐北部に冷水域や親潮系冷水の差込が、負スコアが大きい時期は同海域に暖水域の存在が示唆された。
これらのことから、第2主成分のシーソー変動は、三陸南部から常磐北部海域に一時的に形成される小規模な冷水域、暖水域が影響していることが示唆され、このようなスポット的な水塊形成が、第1主成分より短期的な変動を示す原因と思われた。また、これらからの影響は県北・県中のやや沖合までは比較的大きく、県南海域では小さいことが考えられる。図12はコンポジット解析に使用した期間(表2)の水温偏差を当県の観測点毎に示したものだが、正の期間は塩屋埼定線がプラス基調、富岡、鵜ノ尾埼定線がマイナス基調、一方、負の期間は、全ての観測点でプラス基調を示し、富岡のT6、T7、鵜ノ尾埼定線のU6、U7が+1を越えている。明らかに県中、県北沖側は正の期間は冷水の、負の期間は暖水の影響が見られた。
3.まとめ
今回は、主要成分のスコア時系列から事例解析、コンポジット解析によりその変動要因を検討した。事例解析は、事例を多くとれないことや、その事例も代表性が低い場合が想定され、これを補うためコンポジット解析を行った3)。第1主成分については、各データの裏付けから明らかにできた。しかし、第2主成分に関してはその変動要因がスポット的な暖水塊、暖水域、冷水域が関係していることが示唆され、事例解析、コンポジット解析には現れにくかったことが考えられる。また、これらが形成される要因は、最終的には黒潮、親潮の変動が関与することから、より広範囲なデータを解析する必要がある。これ以外に、第2主成分の変動要因はローカル的な黒潮続流の沿岸部への波及状況(東西変動)も1要因と思われ、塩屋埼からの黒潮離岸距離との関