ふくしま文学のふる里100選-004/30page

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宮本百合子 宮本百合子(みやもと・ゆりこ) 
明治三二・二・一三〜昭和二六・一・二一、東京生。父は著名な建築家、夫は顕治。プロレタリア文学、民主主義文学の先頭に立つ。『三郎爺』『伸子』『播州平野』『道標』等。

水野仙子 水野仙子(みずの・せんこ) 
明治二一・一二・三〜大正八・五・三一、本名服部テイ、須賀川の商人服部直太郎の三女に生。兄は歌人、国文学者として活躍した服部躬治(もとはる)。姉ケサは日本最初の癩病院を設立した医師。三兄妹は福島県の生んだ近代の代表的知識人たちである。躬治には歌集『迦具土(かぐづち)』(明34)があり、「迦具土のその血たばしれ人の世の湯津磐村(ゆついはむら)は苔むしにけり」と詠んだ。『嘘をつく日』『徒労』『神楽坂の半襟』等。

東海散士 東海散士(とうかい・さんし) 
嘉永五・二・二〜大正一一・九・二五、本名柴四郎。会津藩士柴佐多蔵の四男、安房(千葉県)富津の会津藩陣屋生。藩校日新館に学ぶ。鳥羽伏見の戦いに参加。戊辰戦争に参加して敗北し下北斗南移住。弟柴五郎と西南戦争に参加。柴五郎はのち陸軍大将となる。伝記的作品『ある明治人の記録』石光真人編著がある。

若松賤子 若松賤子(わかまつ・しずこ) 
元治元・三・一〜明治二九・二・一〇、会津若松生。フェリス女学院の前身校に学び、後に同校の教師となり巌本善治と結婚。キリスト教の精神に徹した翻訳や創作、評論に麗筆をふるった。会津若松の生家跡には賤子の言葉を刻んだ碑が建つ。

横光利一 横光利一(よこみつ・りいち) 
明治三一・三・一七〜昭和二一・一二・三〇、北会津郡東山温泉生。本名利一(としかず)父が土木請負業でこの地に滞在し誕生の地となる。本籍、大分県。『旅愁』『機械』『上海』等の作品がある。

43 酔ひたる商人
水野仙子
小説 大正八年(一九一九)
酔ひたる商人
 仙子の絶筆作品『酔ひたる商人』は自然主義文学でも優れた短編の一つとされる。「東北のある小さな一町民なる綿屋幸吉は、今朝起きぬけに例の郡男爵から迎への手紙を受け取」り、停車場近くの青巒亭という料理屋へ出かける。須賀川を舞台としたこの作品は、酒好きの主人公の幸吉が男爵と飲んだあと本家に行き、次第に酔ってくだをまき、商売に苦労する自分に対し「感傷的に、自分に向ってあらゆる悪口を並べたてた」あと、さめざめと泣き出す姿が描き出され、庶民の人生の悲しみを表現している。

54 佳人之奇遇(かじんのきぐう)
東海散士
 小説  明治一八(一八八五)
佳人之奇遇
 八編巻一六から成る長編作品。近代日本文学史で政治小説と呼ばれる。明治開化期の民族の独立と自由民権思想を鼓舞する作品で、主人公は東海散士自身。散士が「費府(ヒラデルヒヤ)ノ独立閣(インデペンデントホール)ニ登リ、仰テ自由ノ破鐘」を見たり「米国ノ独立」宣言を読み感激していると、二人の美女が独立閣に登って来る。一人は「西班牙(スペイン)」の幽蘭(ユーラン)と、「愛蘭」(アイルランド)の紅蓮(コーレン)という二佳人。二人は独立解放運動の女性闘士で散士と意気投合した。この美女たちへのあわい恋心や別離を物語の縦糸に舞台が全世界に広がり、政治論を横糸に展開する叙事的作品である。

55 小公子
若松賤子
翻訳  明治二三年(一八九〇)
小公子
 英国のお城にある日突然、跡継ぎとして迎えられた純真可憐なセドリック少年は、孤独で偏屈な老侯爵の心を和ませて、ついに優しい心に変えてしまう。「セドリックには、誰も云ふて聞かせる人が有ませんかツたから、何も知らないでゐたのでした」という書き出しに端的に示されるように、言文一致の文体の開拓者でもあった。賤子の独特な雅趣に富んだ名訳は日本児童文芸史上、不滅の光芒を曳く。原作はアメリカの女流作家バーネットの家庭小説。

57 蝿
横光利一
小説  大正一二年(一九二三)

 「真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋の蝿だけは、薄暗い厩(うまや)の隅の蜘蛛の網にひっかかると、後肢(あしあと)で網を跳ねつつしばらくぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぽたりと落った。(おっこった)そうして、馬糞の重みに斜めに突き立っている藁の端から、裸体にされた馬の背中まで這い上がった」。この馬は猫背の老いた馭者の乗合い馬車を引き、乗客に街で息子が危篤の電報を受けとった農婦や、駆落ち(かけおち)する若者と娘、母親に手を曳かれた男の子、四十三歳で三十三年間貧困と戦ってようやく春蚕(はるご)の仲買で大金を手にした田舎紳士たちを乗せて宿場を出発するが、高い崖路から車輪を外して、人馬もろとも河原に墜落して行く。この光景を大きな眼に映した蝿は青空高く飛び上る。新感覚派らしい作品。
ふくしまゆかりの文学者たち

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