ふくしま文学のふる里100選-010/30page
ふくしまの詩歌
田中冬二(たなか・ふゆじ)
明治二七・一〇・一三〜昭和五五・四・九、福島市生。幼くして県外に転居したが、昭和一九年八月に安田銀行郡山支店長となり二一年六月まで在勤、福島県内の詩人たちと詩心の交流を深め大きな影響を与えた。詩集『晩春の日に』で高村光太郎賞受賞、福島県文学賞の審査員も務めた。
山本友一(やまもと・ともいち)
明治四三・三・七〜、福島市生。歌誌『地中海』を創刊、昭和四九年から七年間、宮中歌会始の選者をつとめた。『布雲』『日の充実』等。
8 青い夜道
田中冬二
詩 昭和四年(一九二九)
いっぱいの星だ
くらい夜みちは
星雲の中へでもはひりさうだ
とほい村は
青いあられ酒を あびてゐる
少年がひとりぼっちでたどる夜道、風呂敷包みに背負った柱時計がねむたげに、寂しくリフレインする。「ぼむ ぼむ ぼうむ ぼむ……」。昭和期の代表的な抒情詩人田中冬二の処女詩集では、田園の風光をラムネのビンを透かして見るような淡い幻想として捕らえ、清爽の香りを放つ。
10 北窓(きたまど)
山本友一
短歌 昭和一六年(一九四一)
湯にくだるながき廊下になびき寄り日のくるるまで穗萱の光(岩代高湯)
著者は、昭和六年に旧満州に渡り満鉄に勤め、鉄道建設に従事した。終戦後の混乱のなか九死に一生を得て帰国、この間、『国民文学』同人として作歌し、これは第一歌集。以後十数冊の歌集を出版した。初版は昭和一六年であるが、昭和五一年に再版された。
兵ならぬ身のくやしさは胸さわき押ししづめつつ爆撃されぬ
辛うじて吾はなぐさむ背後より陥れたることかつて無し
北窓の光にひろげ日毎しらぶかかる図面も軍の機密か