ふくしま文学のふる里100選-026/30page
津村節子(つむら・せつこ)
昭和三・六・五 福井市生。 昭和四〇年『玩具』で芥川賞を受賞した。
井上靖(いのうえ・やすし)
明治四〇・五・六〜平成三・一・二九、北海道旭川生。『闘牛』で芥川賞を受賞。『猟銃』『あすなろ物語』『敦煌』等多数。「磐梯吾妻スカイライン」の命名者でもある。
渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち)
昭和八・一〇・二四〜 北海道生。昭和四二年『光と影』で直木賞。『遠き落日』では吉川英治文学賞を受賞している。
鈴木隆(すずき・たかし)
大正八・八・一二〜、岡山県生。旧制喜多方中学、早大文学部卒。坪田譲治に師事した童話作家・小説家で、自伝的色彩の濃い長編小説『けんかえれじい』が代表作。
賀川豊彦(かがわ・とよひこ)
明治二一・七・一〇〜昭和三五・四・二三、神戸市生。キリスト教社会運動家であり作家。自伝小説『死線を越えて』(大9)は大正期最大のベストセラーとなる。他に『貧民心理の研究』(大4)、詩集『涙の二等分』(大8)などの著作がある。
三浦哲郎(みうら・てつお)
昭和六・三・一六〜 、青森県生。哲郎は末子だが、六人兄弟のうち姉二人が自殺、兄二人が失踪するという「病んだ血」に悩み、これとのたたかいが三浦文学の中心のモティーフとなる。
井伏鱒二に師事し、昭和三六年には『忍ぶ川』で第四四回芥川賞を受賞している。他に短編集『結婚』(昭42)、長編小説『海の道』(昭45)などがある。
64 小磐梯・湖上の兎
井上靖
小説 昭和三六年(一九六一)・昭和二八年(一九五三)
明治二一年の磐梯山の噴火を描いた短編小説『小磐梯』の主人公私は収税吏、裏磐梯の部落の耕作面積を調べるため留吉と金次二人の助手をつれて喜多方から檜原まで大塩峠を越えて行った。「磐梯は、頂上に特っている大磐梯、小磐梯、赤埴の三つの峰」を持っていたが、小磐梯が地鳴や子供達の「ブン抜ゲンダラ、ブン抜ゲロ」の絶叫の中で、永遠に噴火で姿を消す。私と宿で一緒した氏名不詳の蒲鉾商人と自殺希望の若い男女も姿を消すが犠牲者数には入っていない。
『湖上の兎』では「一般には西安積の五つの村を山蔭」と呼ぶが、土地の人は暗い呼び名を嫌う。自殺した香住りえは、この安積郡猪苗代湖畔(現・郡山市)の出身。その西安積に向けて湖面を吹く風に沢山の兎が跳ねる様に白波が立つ。主人公の私は「湖上の兎」を見ていると、この美人を思い出す。
67 遠き落日
渡辺淳一
小説 昭和五〇年(一九七五)
明治九年に猪苗代湖畔の貧農の家に生れた野口英世は、超人的な努力と周囲の援助で上京、医師の資格を得た。その後、単身アメリカに渡り、細菌学で数々の功績を挙げたが、英世は黄熱病研究のためアフリカの地で、自らの研究の犠牲となった。英世の成功の蔭には、母シカの大きな支えがあった。懸命に生きた母、壮絶に生きた息子を描いたもので、映画化もされ好評を博した。
68 けんかえれじい
鈴木隆
小説 昭和四一年(一九六六)
クリスチャンでありながら喧嘩(けんか)に勝つための修業にひたすら精進する硬派少年南部麒六(きろく)が、戦前の喜多方中学へ転校して来た。「喜多方のメインストリートは、道幅を十分にとってあり、かなり広々とした道路であった。両側に、三尺程の溝があり、押切川からとり入れた水であろうか、澄んだ流れが、北国特有の長い廂の下をひたひたと洗っていた」。会津中学昭和白虎隊との鶴ヶ城址での壮絶な決闘、そして永遠の聖女道子さんへの一途な思慕を抱きながら、一兵卒として中国大陸で散っていった麒六の喧嘩人生を、軽妙なユーモアをちりばめつつ劇画調の乗りのよい文体で奏でた悲歌(えれじー)。新藤兼人脚本の同名の青春映画も鈴木清順監督の名作だ。
70 乳と蜜の流るる郷
賀川豊彦
小説 昭和一〇年(一九三五)
喜多方から三里の地の大塩村(北塩原)出身の青年田中東助が、病気と貧困に苦しむ人々が多い故郷を救い、「乳と蜜の流るる郷」にするには、立体農業と協同組合運動とによるしかないと知り、多くの苦難をのりこえ、檜原湖畔一帯に楽土を現出させるまでを描く。
キリスト教精神によって、常に貧しい人々の生活救済に心身を捧げてきた作者の根本思想がよく表れている小説である。
71 まぼろしの橋
三浦哲郎
小説 昭和四六年(一九七一)
橋をつくることに夢を抱く土木技師の霞五郎は、山中で遭難しそうになった若い女性塔ノ沢香織を救助する。香織は豚汁を初めて食べて元気を取り戻し、二人の仲は愛へとむかう。
やがて霞は、只見川の流れる橋の多い町柳津へ、橋の補修工事のため出張して来る。そこへ一二月の或る日、豚汁が食べたいといっている霞のことを聞いて香織が現れる。だが二人の愛は、決壊したスノー・ダムの急流に二人がのまれてしまうことで、悲惨な終わりをむかえる。
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