サクシード中学校国語から高等学校国語へ-009/43page
このような人類の想像に否定的な答えを下したのは、人類自身の手による惑星探査の結果であった。一九七五年、ソビエトの惑星探査機「ヴェネラ」は、金星の表面に軟着陸を果たし、観測結果を地球に送信してきた。それは驚くべきデータであった。まず、金星を覆っている厚い雲は、濃い硫酸の水滴の集まりであること、また、金星の表面には、いつも秒速数十メートルという猛烈な風が吹いていること、そして、地表の気温は、なんとセ氏四八○度にも達していることなどが明らかになった。これでは、水は水として存在することはできないし、まして生物の生存を許すような環境ではない。人類の描いていた夢は、見事に裏切られてしまったのである。(第四段落)
それにしても、なぜ金星の表面は、このように想像を絶するほどの高温の世界になってしまったのだろうか。金星は確かに、地球よりも太陽に近い。しかし、太陽熱だけで、このような高温になりうるのだろうか。(第五段落)
その答えは、金星大気中の二酸化炭素にある。「ヴェネラ」による探査の結果、金星の大気は、その九七パーセントが二酸化炭素によって占められていることがわかった。(第六段落)
太陽の光は地面を暖め、暖められた地面は、熱を放射して冷えようとする。この放射熱を大気中の二酸化炭素や水蒸気などが吸収する。そこで、大気の温度が上がるのである。だから、大気中の二酸化炭素の量が多くなればなるほど、吸収される熱も増え、気温が上昇する。この現象は、農家が普段使う温室の中の状態と似ているので、「温室効果」とよばれる。つまり、金星表面の高熱地獄は、大気中の二酸化炭素による温室効果が進みに進んだ結果なのである。(第七段落)
(以下略)
(伊藤和明「金星大気の教えるもの」光村図書三年)
〔確認問題〕
一 なぜ金星の表面は、高温になってしまったのか、図などを取り入れて自分の言葉でわかりやすく説明してみよう。
二 本文のあとにはどのような内容の文章が続くと考えられるか。題名に注目して自分なりの論の展開を考えてみよう。
〔高等学校における指導のポイント〕
文章を受動的に読むだけではなく、自分を筆者の立場に置き、論の展開を予想して能動的に「推論」しながら読む。それにより文章の構成に対する感覚が養われ、思考力、読解力が深まる。特に論の展開を「問題提起」と「解決」とに大別することにより理解が容易になる。
○問題提起の部分に注目した推論をする
本文では、第二・三段落においてなされた問題提起が、第四段落において解決されていることに着目させる。
また、第五段の「なぜ…だろうか。」という問題提起を受けて、第七段落で、「そこで」「だから」「つまり」と論が展開し解決されていることに着目させたい。
○巨視的な観点から論を予想する
金星に対する親しみや人類の夢から始められた文章が、このあとどのような展開をするか予想させることにより、論の展開に関する見通しをもつことができる。筆者はこのあと、金星と地球の生成過程の違いと海の存在について述べ、美しい地球を守るために金星人気から学ぶべきことは何かについて論を進めている。
【論理的な文章の理解に関わる言語事項】
◆論の展開の道筋を大きくとらえるためには、接続詞に着目することが大切である。たとえば、
1)順接(だから、それで)など
2)逆接(しかし、だが)など
3)転換(さて、ときに)など
4)並立・累加(しかも、そのうえ)など
5)対比・選択(それとも、または)など
6)説明(つまり、なぜなら)などである。
また、これらの接続詞を用いて短作文を作ることにより、文と文との論理展開への理解が深まる。