サクシード中学校国語から高等学校国語へ-013/43page
して明らかに人々の気持ちをくつろがせていた。(第三段落)
流れる水と、噴き上げる水。(A)
そういえばヨーロッパでもアメリカでも、街の広場にはいたるところにみごとな噴水があった。ちょっと名のある庭園に行けば、噴水はさまざまな趣向を凝らして風景の中心になっている。有名なローマ郊外のエステ家の別荘など、何百という噴水の群れが庭をぎっしりと埋め尽くしていた。樹木も草花もここでは添え物にすぎず、壮大な水の造型が轟きながら林立しているのに私は息をのんだ。それは揺れ動くバロック彫刻さながらであり、ほとばしるというよりは、音を立てて空間に静止しているように見えた。(第四段落)
時間的な水と、空間的な水。(B)
そういうことをふと考えさせるほど、日本の伝統の中に噴水というものは少ない。せせらぎを作り、滝をかけ、池を掘って水を見ることをあれほど好んだ日本人が、噴水の美だけは近代に至るまで忘れていた。伝統は恐ろしいもので、現代の都会でも、日本の噴水はやはり西洋のものほど美しくない。そのせいか東京でも大阪でも、街の広場はどことなく間が抜けて、表情に乏しいのである。(第五段落)
西洋の空気は乾いていて、人々が噴き上げる水を求めたということもあるだろう。ローマ以来の水道の技術が、噴水を発達させるのに有利であったということも考えられる。だが、人工的な滝を作った日本人が、噴水を作らなかった理由は、そういう外面的な事情ばかりではなかったように思われる。日本人にとって水は自然に流れる姿が美しいのであり、圧縮したりねじ曲げたり、粘土のように造型する対象ではなかったのであろう。(第六段落)
止め(静止)」などが本文のキーワードであり、その対比により要旨を把握することができる。
なお、名詞だけでなく、動詞(流れる・噴き上げる)、形容詞、形容動詞(華やかな・静かな)、副詞などに注目することにより、論の内容が理解しやすくなる。
〔中学校における指導のポイント〕
中学校の段階では、読解の基礎となる対比的なものの見方についての理解を、本文の読解の中で丁寧に進めていきたい。とりわけ、「過去と現在」「日本と欧米」「時間と空間」などの対比の構造化による理解は、要旨を把握する上で効果的である。
○対比される言葉への着目
なにが対比されているのかを図式化し、対応する言葉を書き抜かせ、その中で特に中心になっている項目について考えさせる。
【例】
東洋(日本) 西洋 鹿おどし 噴水 ・流れる水 ・噴き上げる水 ・流れてやまないもの ・華やかなもの 水 水 ・自然に流れる ・壮大な造形 ・轟きながら林立 ・時間的な水 ・空間的な水 形 形 ・積極的に、形なきものを恐れない心 ・目に見える水 ・見えない水