サクシード中学校国語から高等学校国語へ-014/43page
言うまでもなく、水にはそれ自体として定まった形はない。そうして、形がないということについて、恐らく日本人は西洋人と違った独特の好みを持っていたのである。「行雲流水」という仏教的な言葉があるが、そういう思想はむしろ思想以前の感性によって裏づけられていた。それは外界に対する受動的な態度というよりは、積極的に、形なきものを恐れない心のあらわれではなかっただろうか。(第七段落)
見えない水と、目に見える水。(C)
もし、流れを感じることだけが大切なのだとしたら、我々は水を実感するのにもはや水を見る必要さえないと言える。ただ断続する音の響きを聴いて、その間隙に流れるものを間接に心て味わえばよい。そう考えればあの「鹿おとし」は、日本人が水を鑑賞する行為の極致を表す仕掛けだと言えるかもしれない。(第八段落)
(山崎正和「水の東西」東京書籍「国語1」)
【要旨】(例)
西洋人は噴水という空間的で目に見える水を鑑賞するが、日本人は形なきものを恐れない心を持つため、「鹿おどし」という時間的で見えない水を流す仕掛けによって流れるものを間接的に心で味わう。
〔確認問題〕
一 日本人の好みを本文中の(A)、(B)、(C)の言葉を用いて対比的にまとめてみよう。
二 次の言葉を用いて本文の要旨をまとめてみよう。
「空間的・時間的・目に見える水・見えない水・流れるもの」
三 建物、道、食事などについて、日本と西洋の違いをグループで調べて、構成を考えて発表してみよう。
〔高等学校における指導のポイント〕
中学校で学んだ構成の基本的知識をもとに、個々の段落の対比的な構造を把握し、段落相互の関係を明らかにすることが高等学校においては重視される。構成方法としては、「頭括法」や「尾据法」あるいは「双括法」に注目させ、具体例と意見との相互の関係にも触れながら全体の要旨を把握する必要がある。
○段落ごとのつながりの確認
段落ごとの内容を読みとり、各段落のつながりを考えさせるとき、対比されている、項目を図示することにより内容の理解が図られる。
【例】
1) 「鹿おどし」というもの 2) 「鹿おどし」が我々に考えさせること 3) 西洋における噴水 対比 4) 5) 日本における噴水 6) 西洋における水についての背景 対比 7) 日本における水についての背景 8) 日本文化における「鹿おどし」 (○数字は段落の番号)
第二段落においては、具体的印象から抽象的思考へと論が発展している。その農閑の中で「いやがうえにも引き立てる」「かえって…強調している」という表現が重層的な効果をあげていることに注目させる。
また、この段落が、第八段落の「流れるもの」につなげられており、(A)の「流れる」や(B)の「時間的」という表現にも関連している構造上の要であることを理解させる。