サクシード2中学校国語から高等学校国語へ-030/81page

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9)夢や記憶から想像する
  一夢見る力一

●夢 一究極の個人体験一
 夢や記憶をたどることによって、自分だけにしか見えないものが見えてきます。記憶も夢もある意味で、その人でなければ絶対に感じられない究極のものの一つです。他の人の脳裏にあるイメージを他の人が同じように感じることは困難です。

 三島由紀夫が、その作品の中で、生まれたときの様子を鮮明に記憶している人物を描いていることは有名ですし、島尾敏雄や夏目漱石には、夢をモチーフとした作品があります。次の一節は「夢十夜」」第七夜の冒頭です。

 何でも大きな船に乗っている。
 この船が毎日毎夜すこしの絶間なく黒い煙を吐いて浪を切って進んで行く。凄じい音である。けれども何処へ行くんだか分からない。ただ波の底から焼火箸のような太陽が出る。それが古河い帆柱の真上まで来てしばらくかかっているかと思うと、何時の間にか大きな船を追い越し、先へ行ってしまう。そうして、しまいには焼火箸のようにじゅつといってまた波の底に沈んで行く。
(「夢十夜」夏目漱石岩波文庫)

 この作品には、一人の人間の夢体験が描かれるとともに、人間存在そのものに内包する不安やおそれなどが叙述されています。

●記憶 一現在の自己を支えるもの一
 夢とともに、私たち自身の思考・感覚を根底で支えているものとして、記憶をあげることができます。誰にも忘れられない貴重な記憶やかけがえのない思い出があります。日々の生活の中で忘れがちな自分自身を記憶によって取り戻すことも可能です。目に見えるものだけでなく、目に見えないものを大切にし、想像力を大きく羽ばたかせるという意味でも、夢や記憶に注目することが大切です。
 例えば、記憶に関して次のような作品があります。

夢や記憶

●夢と文学作品
 文学作品には、夢や記憶を素材にしたものが数多いといえます。
 例えば、夏目漱石の「夢十夜」、福永武彦の「忘却の河」、島尾敏雄の「死の棘」、外国文学ではG・ネルヴァルの「オーレリア」「火の娘たち」、そして、M・ブルーストの「失われた時を求めて」などが有名です。
 また、日本の古典においても、「源氏物語」の夕顔の巻などに夢の記述がありますし、三島由紀夫の「豊饒の海」に影響を与えたといわれる「浜松中納言物語」には、夢と転生が描かれています。
 自分の内面を見つめるという意味でも、夢や記憶の再発見を試みたいものです。

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