教育福島0001号(1975年(S50)04月)-025page
図書館だより
郷土資料の収集と保存
「郷土資料」と言えば一般の人には、かびくさい古いものと思われがちだが、郷土に関する古い資料はもちろん、「公害問題」とか「原子力発電」とかいった時事的な資料も含めて、わが福島県に関する資料はすべて「郷土資料」として収集の対象となる。
公共図書館において、郷土資料を収集し、サービスするのは、郷土を現在の姿に開拓した祖先の歩んだ道を知り郷土に対する深い認識を持ち、そして得た知識を活用して、地域の発展に資するところにある。
郷土資料は図書ばかりでなく、雑誌パンフレット等々さまざまで、内容においても、年鑑、地方行政資料、県市町村史(誌)、地図、県人の伝記、句集歌集、詩集、小説等多彩にわたる。
図書館に勤めている人は誰でも経験することだが、絵葉書、写真のようなものが、非常に役に立つ。しかし、郷土資料は書店で手に入るものは少なく非売品、私家版、限定版が多く、後から求めることが全く不可能なものが多いだけに、公共図書館として一番力を入れざるをえない。
某新聞福島支局のある記者は、県立図書館は地方文化の守り手であると言ってくれた。毎年県内あちこちでおびただしい出版物が刊行されているが、それを収集保存して後世に確実に伝える公共図書館は、確かに地方文化の守り手として自負してよいかも知れない。
県立図書館には約一万四千冊の郷土資料が保存されているが、それらは多くの先輩たちが苦労して収集し保存して来たものである。しかし今日からみれば収集されずに散逸した資料も相当あるように思われる。
郷土資料のうち、今日最も重要視され、かつまた利用者の要望が大きい地方行政資料は、昭和三十四年以降、単に寄贈されるものを待つという消極的な収集方法から関係諸機関に働きかけてできるだけ多くの資料を収集しようという積極策を打ち出した。その後うよ曲折を経て、現在、県関係出版物は県教育庁総務課を通して寄贈されるケース、直接寄贈されるケース、行政資料室等から保管転換されるケースといった三つのケースで収集されている。
市町村刊行物は、もっぱら寄贈待ちの状態で、たまたま新聞等で紹介されたものを、寄贈依頼状を出して収集するというケースと、移動図書館で巡回の際、公民館、教育委員会で収集するケースとで、どちらかというと消極的な方法にたよらざるをえない現状である。
地方行政資料以外の郷土資料は、直接寄贈される資料以外は、地方紙等で紹介されたものを寄贈依頼状を出して収集するという状態なので、今後インフォメーションの拡大に大きな努力を払わなければならないと考えている。
郷土資料の閲覧という面では、昭和四十七年四月、館内を全面的に模様替えし、調査相談室を拡大した際、従来書庫内に保存して置いたもののうち、県、市町村史をはじめとして郷土資料の一部を公開した。また「同人誌コーナー」を設置するとともに「地方行政資料コーナー」を設置し、県の例規集県報、広報、議会報等の重要な行政資料を公開した。
従来、郷土資料は原則として貸し出しをしない方針であったが、現在はできるだけ複本をそろえて貸し出す方向に行っている。保存と利用はいつも問題になる点であるが、郷土資料だという貴重性の故に貸し出しを禁ずるというのではなく、数多く収集し、貸し出すべきであると考えるわけである。
また単にこれを収集保存するだけでなく、市民に知らせることも考えなければならない。いろいろな機会をとらえて展示会を開くとか、冊子目録を刊行するとかが大切である。蔵書目録として過去に「郷土資料蔵書目録〔昭和四十年一月現在〕」「郷士資料増加目録〔昭和三十年−昭和四十年〕」の二冊を刊行しているが、四十年以降はまとまったものが刊行されていないので更に三冊目の刊行を期したいと思う。
最近某所の機関誌に次のような提案が掲載されているのが目に止まった。すなわち「活字になったり、発行された“本”という形だけでなく、肉筆の原稿や、執筆に当たっての資料・文具類などについて、文学関係者の提供や買い上げによって保存することはどんなものであろう。物故者については、関係縁者の御協力を願い、現在活躍中の文学者のかたがたからは直接に提供を受け、原稿その他の創作に関したものを一堂に保管し、福島県関係文学資料として一般公開したり、研究の一助とする方法は取れないものであろうか。」というものである。傾聴すべき意見であるが、そうした面まで手を広げるとなると容易ではないし、それらも含めて、郷土資料を完全に収集することは当館の力の遠く及ぶところではないので、関係各機関の御理解と御協力を切にお願いするしだいである。