教育福島0003号(1975年(S50)07月)-019page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

具体的に正しくは握しておく。

(二) 事実の調査には、正確と慎重を期するため、ホームルーム担任の他に学年主任又は生徒指導部のメンバーなど複数で当たるほうがよい場合もある。

(三) 調査に当たっては、本人の言葉だけでなく、客観的な裏付けをとるため、時には、警察の調書や関係者の証言などを参考にする必要もある。

(四) 生徒を初めから罪人扱いしたり生徒どうしに犯人探しをさせるようなことがあってはならない。

(五) 強圧的な態度をとったり、誘導尋問的手法を用いることは慎まなければならない。

(六) 措置を決めるに際して、生徒の行為の何に対して、何のための措置かをはっきりさせることが必要である。

(七) 前例や他の非行との均衡を考慮する。

(八) 自ら申し出た非行や、時間の経過したものについては、配慮があってよかろう。

(九) 多くの意見を足して割るといったような妥協を排し、できるだけ全員の一致した共通理解の下に、結論を出すよう努めることが大切であろう。

(十) 指導過程や事実調査及び措置決定の経過を克明に記録しておく必要がある。

 

七、親の理解を求める

 

親子の関係は理屈では割り切れないものである。わが子が罰を受ければ、その行為が非であることが理解できても、不満を漏らしたくなるのが人情である。

(一) なぜ、もっと早く親に連絡してくれなかったのか。

(二) よくない友だちに引きずられているのに、その友だちに対しては厳しい指導もせず、わが子だけを悪者にするのは不公平ではないか。

(三) 学校の指導にも責任があると思うが、わが子だけを一方的に処分することは納得できない。

このような指摘の中には、確かに、親の自己中心的な考え方が潜んでいるように思われるが、しょせん、親の理解と協力が得られなければ、指導の効果が期待できないだけでなく、子供にマイナスの影響を及ぼすことになる。家庭の理解を得るためには、日ごろ学校と家庭の信頼関係を深め、その子の問題について相互の意思疎通を図る努力が必要である。親を相手に、学校の措置や教師の考えを理解してもらうのは容易ではないが、できるだけ接触の機会を多くし、親との話し合いの中で指導記録や調査結果に基づいて説明しそれがやむをえざる措置であり、かつ本人の再起のために必要であることをよく理解させるように努めなければならない。同時に、指導措置だけに終わらず、暖かい心で、自己修復に手を差し伸べてやることが親の心を動かすことになる。

 

八、おわりに

 

前にも述べたが、懲戒は、ほかの効果的な指導方法が見つからない場合にやむなくとられる手段である。措置する前に、果たしてどれほどの指導がなされたのか、懲戒以外の指導方法は見つからないのか、措置が単に前例踏襲ということで、事務的、機械的に行われていないか、逆に、教育的配慮という名において、措置が感情的、し意的になったり、公平性を欠いたりしてはいないか、など真剣に自問を繰り返すことが必要である。

本来、懲戒には二つの不可分の側面がある。一つは、他の生徒への影響を最も重視する立場一つまり学校全体の秩序の保持を目的とする立場)であり他の一つは、当該生徒をいかによくするか、つまり、一人の生徒を救うことに力点を置く立場であるが、この二つはしばしば相反する要請であって、教師は常にこの二つの要請の調和を求めて悩むのである。

忘れてならないことは、生徒に指導措置をしたことで、指導が終わったのではなく、そこから指導が始まるということである。なぜ、そのような問題行動に走ったのか、指導措置の前と後で生徒の内面にどんな変化が生じたかあるいは、なにも変わらなかったのか内面的変化と行動の変容とが対応していて、二度と問題が起こることがないと予測できるか、などの確かめが、そのまま新しい指導につながっていくのである。多くの場合、懲戒は一時的に痛みを解消する痛め止めの注射の役割を果たしているにすぎない。したがって非行問題は、指導措置や強制だけでは救えないことは明白である。共感的理解に基づき、根気強く、個別的に解決しようとする立場と、指導措置によって解決しようとする立場とが相互補完と調和を求める過程の中に、問題解決の糸口が見いだせるのだという考えを再び強調したい。

 

■参考文献■

「生徒指導の手びき」第一集文部省

「月刊生徒指導」各月号 学事出版

「生徒指導事典」第一法規

「現代学校経営事典」明治図書

「学校経営基本用語辞典」明治図書

相良惟一「教育行政学」誠文堂新光社

「少年の補導及び保護の概況」 福島県警察本部

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。