教育福島0006号(1975年(S50)10月)-025page
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図書館だより
調査相談業務の現状
県立図書館の調査相談室に、最近いわき市の人から電話でこんな問い合わせがありました。
「あの−ノーマン・メイラーが、いわき市の小名浜を舞台にした作品を書いているという話を聞いたのですが…」 「ノーマン・メイラーといいますと『裸者と死者』とか『鹿の園』で有名なアメリカの反戦主義作家ですネ」
「そうです。彼の小名浜を舞台にしたという作品名と、小名浜とメイラーとの関係についての資料があれば紹介してください」。
この件に関しては何の予備知識もなかったのでノーマン・メイラーといわきというのは、いかにも唐突な組み合わせに思えました。しかし、年譜に当たってみると、意外にもメイラーは終戦後間もない昭和二十一年に二か月間ほど、進駐軍の炊事班長として小名浜に駐屯していたのです。「ぼく自身のための広告」所収「兵士たちの言葉」という短編は小名浜を舞台にしたものであり、傑作「裸者と死者」にも小名浜の印象が投影して重要な影響を与えているとされているのだそうです。これらのことは昭和五十年一月六日付「いわき民報」に詳しく報道されていることが判明し、その記事をコピーして調査依頼者に回答として送付しました。
このように、ある情報を必要とする利用者に対して、参考となる資料を提示する仕事を図書館ではレファレンスワーク(Reference Work)と称し、当館では調査相談係が担当しています。
歴史的に見てみますと、図書館が本の倉庫から資料提供機関へ、司書が本の番人から資料探索技術の専門家へと転換した二十世紀前半に、レファレンスワークは発生しました。それは市民の「知る権利と自由」が保障された近代民主主義社会の発展と呼応しています。更に、情報の洪水といわれる現代社会においては、情報サービス網の一環として機能することが図書館に求められ、調査相談の業務(レファレンスワーク)は飛躍的に増加してきています。
次に、当館における調査相談業務の概要を、三つの項目に分け紹介しましょう。
(1) 調査相談に対する回答
昭和四十九年度の統計によりますと記録された調査相談の形式は、文書百九十件、電話三百七十五件、口答四百三十六件、総計千一件に及びます。特に文書は急激に増えており、その七十パーセント以上が県外からのものです。内容的には、郷土史に関するものが圧倒的に多く、資料の所在、書誌的事柄に関するものがこれに次ぎます。
問題点としては、調査相談の「回答事務は資料を提供することを原則とする」(日本図書館協会規程)とされていますが、現実には詳細かつぼう大な代行調査の依頼がかなりあり、このような利用者の動向に対応した方針を図書館側で検討すべき時期が来ているように思われます。また、当館の蔵書は約二十万冊ですが、実際に調査に当たってみますと資料の手薄なことはただたださ嘆あるのみで、大幅な資料費の増額が、県立図書館の責務を果たすためにも早急に切望されます。
(2) レファレンストゥールの作製
調査相談の回答のための資料として作製される各種の索引・書誌類がレフアレンストゥール(Referece Tool)です。
現在当館では、郷土新聞の切り抜きと記事索引カードを作製、他に「福島県史・人物篇」の基礎資料となった福島県人物カードも公開されています。また、県内各公共図書館所蔵郷土資料の総合目録の刊行が企図されています。今後は千葉県立図書館の「資料の広場」のような郷土に根ざした書誌研究誌や長野県立図書館の「調査相談連絡会報」のようなレファレンスのための機関誌の刊行も必要であると考えています。
(3) 複写サービス、相互貸借、展示
当館所蔵資料についてはゼロックスによるコピーサービスを実施、四十九年度は二千百件、三万枚以上の利用者がありました。
国立国会図書館及び東北、北海道の公共図書館とは、資料を相互に貸借する協定を結んでいます。したがって、当館にない資料をこれらの館から借用して提供するサービスも行っており、昨年の利用は三十二件。
そのほか、展示も調査相談係で企画しており、郷土作家発掘シリーズとして「東野辺薫展」に続き、今秋には飯野町出身のプロレタリア作家「斎藤利雄展」の予定で準備を進めています。
それにつけても「本は利用するためのものである」(Books are for use.)という、インドの哲学者であり、図書館学の先駆者でもあったランガナータンの簡潔な言葉の持つ意味の重さが、今更のように思いあたります。人類の文化遺産である図書を死蔵することなく、必要とする利用者に的確に提供し活用する調査相談の仕事は、新しい図書館の基本的な機能とかかわるものであり、県立図書館でもより充実させていきたいと思っております。
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