教育福島0006号(1975年(S50)10月)-028page
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教育随想
ふれあい
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仲間意識を育てる
伊藤 俊子
新しいランドセルを背負い、新しい洋服を着て、親に手を引かれ登校してくる一年生。どこにでも見られる入学式の風景である。
二度目の一年生担任である。
どんな子供たちだろうか。早く名前を覚え、学校生活に溶けこませなければ、と子供以上にドキドキしている。
子供たちとの出合いは、まず胸に記章をつけてやることから。うれしさを隠しきれずに上気した顔。きらきらした目。おそるおそる話す子もいれば、自分からどんどん話しかけてくる子もいる。なにかかにかのチャンスをつかまえて、とにかく全員と話をしたことで、まず、ほっと胸をなでおろす。
親たちの期待感、子供たちの無邪気な目が痛いように胸に食い入る。
一か月たったころ、M男が「給食があるから学校へ行きたくない」と言って朝からぐずっていると、家庭から連絡を受けた。今までなにごともなくこれなら大丈夫と思っていたやさきのことで、私もびっくりしてしまった。実はその二、三日前に母親から、s「給食は喜んで食べているでしょうか」と問い合わせがあり、変なことだなあーと思いながら、「喜んで食べてます。お代わりをするくらいです」と答えたばかりであったから。
学校に来るのを待ちかねて、その日の様子を見ていたが、今までと変わったことはない。人なつこく、私にも話しかけてくるし、友達といさかいをしている様子もない。学習態度もよく、注意深く耳を傾け、活発に発表している.別の原因があるのでは、と思い母親と相談をした。
「M男は神経質で、いったん思い込むと、さきざきの心配までしてしまうところがある」。
確かにその面は見られた。友達が泣くといっしょになって泣き出してしまう。
そこで給食のとき、M男の隣に座るようにし、いろいろ話かけてみた。
「M君、食べられなかったらどうしょうと心配し過ぎるよ。反対に食べられると思ってごらん」。すると、前の席の子が、
「そうだよ。ぼくも、最初鉄棒できなかったけど、できると思ったらできるようになったよ。M君もそう思ってみ」。
友達の言葉がM男に通じたらしい。なにかあると、私もそのときのことを思い出させ、自信を持たせるようにした。
このような友達どうしの触れ合いこそ大切なのだとつくづく思った。
二学期M男は、班長になった。今度はプールをきらった。少しずつ、水に慣れさせていく。
学校の一日は忙しい。しかし、せめて休み時間に子供たちと遊んでやりたい。時々、楽しいお話をしてやりたい。そう思いながらも、次々出て来る用件で、思ったことの何分の一もできない。
そこで給食時を利用して、子供たちのグループを回っていっしょに食べることにした。休んだ子がいるときは、その子の席に座った。話がはずむ。今の流行のこと、なぞなぞ、家でのことなど。少々行儀悪くなるが気にしない。子供たちの生の声が聞ける。
「Bちゃん、変だね。急に太ったよ」
「S君、幼稚園のときいばってたけど学校に来たらやさしくなつちゃったよ」
「O君、けがしちゃってかわいそうだね。学校に来れないもの。昨日お母ちゃんにおんぶして、医者に行ったよ」
「Aちゃんが一番心配しているよ。隣の人だものね」
運動会の練習の日。分校の子が混ざって給食。
「先生、数えたら、全部で二十六人になったよ」
「先生も入れて、二十七人だい」
一年のねらいはみんな仲良く、時にはけんかをしたり、泣きながらむしゃぶりついていくことがあろうとも、それらを通し三年生二十三人の仲間意識を育てていくことである。
(岩瀬郡長沼町立長沼小学校教諭)
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