教育福島0007号(1975年(S50)11月)-011page
五、歌舞伎公演
○期日 十月三十一日(金)
昼の部
一一・三〇〜
夜の部
一六・三〇〜
○会場 いわき市平市民会館
○公演団体 松竹株式会社
○出演者 中村 鴨治郎
中村 扇雀
澤村 田之助
片岡 我当 ほか
○演目
(1) 神霊矢口渡
御目見得口上
(2) 二月堂良弁杉由来
(3) 英執着獅子
○入場者数 昼夜約二千百名
○感想
本年度の歌舞伎の地方巡回は、北陸、関西及び九州地方となっていたのであったが、本県は移動芸術祭の集中県であり、また、いわき市文化センターが本年五月にオープンしたので、こけら落しの意味を含めて、特に北海道・東北地方では唯一の公演となったものである。出演者も芸術院会員中村鴨治郎をはじめ、その息子である中村扇雀、そして澤村田之助、片岡我当といった松竹歌舞伎最高の豪華メンバーを、そっくりいわき市に移しての公演であった。これだけの役者が、東北地方で公演したのは本当に珍しいことと言える。中でも、「良弁杉由来」は、母子再会の物語だが、不思議なことにこれまで親子で演じられたケースは、ほとんどなかったとのことである。それが今回は、父の鴈治郎が母親役で渚の方に、息子の扇雀が良弁大僧正にふんし、母子再会のクライマックスの場面では、涙を流す観客がたくさん見受けられた。そのほか、「英執着獅子」では、宝暦年間の初演そのままの、二百年以上前の優雅さをこれまた当たり役の扇雀が、歌舞伎舞踊の美の極致を演じ、観客からはため息が何度となくもれていた。今回は昼・夜二回の公演であったが、
白鳥の湖 第4幕
良弁杉由来の鴨治郎と扇雀