教育福島0007号(1975年(S50)11月)-025page

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図書館だより

親子読書運動の中で思うこと

 

親子読書運動も四年目、子供の読書に対して関心が高まるにつれ、セット内容の充実や文庫設置の要望が各地で起こり、県立図書館では目下その対策に悲鳴を上げています。異常な物価高の波が本の価格にも押し寄せてこないはずはなく、特に子供の本の値上り幅はあぜんとするばかりの昨今、今後の親子読書運動は予算面で相当苦しい状況が予想されます。

子供の読書を考えるとき、公共図書館の数が少なく、予算も貧しい現在では、家庭や学校の連携なくしてはそのサービス対象、内容とも制限があり、非常に偏ったものにならざるをえません。

家庭での幼児からの読書の習慣づけ学校での集団読書による読みの深まりと幅の広がり、家庭文庫や公共図書館での楽しい読書の発見と他の遊びへの発展など、それぞれの特徴を損なうことなく互いに協力し合い、どの子供にも常にそのような機会が持ててこそ望ましい読書環境と言えるでしょう。

親子読書運動を始めてから、従来の県立図書館の運営での大きな変化は、なんといっても学校、家庭文庫との連携であり、それぞれの特徴を認識し合い、不備な点をカバーしえたことですが、その連携はまだほんの一部分に過ぎず、この輪は大きく広げて行く必要があると思います。

しかし子供の読書への関心が高まってきているとは言っても、問題は山積しており、手放しで喜べない現状です。本の出版一つをとってみても、出版数も多くなり、質も良くなってきてはいますが、まだまだ多くの問題点が指摘されます。その典型的な例として、名作文学のダイジェスト版について考えてみましょう。

書店の子供の本のコーナーの大部分分は、相変わらず小学校低学年あるいは中・高学年用○○名作全集といった名作文学のダイジェスト版で占められており、大多数の大人は、単に名作だからとか、自分も読んだことがあるからといった理由だけで、子供たちにそれらを買い与えております。現在国語の教科書に掲載されている文学作品の抜枠が問題になっていますが、同じことが子供の本の出版について言えます。

小・中学校の読書調査で、子供たちに多く読まれたものとして、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」やパール・バックの「大地」、メルヴィルの「白鯨」などの書名がよく見られます。岩波文庫の右記の本を調べてみますと「カラマーゾフの兄弟」全四冊「大地」全三冊、「白鯨」全三冊で、いずれも非常な長編であり、内容も大人が読んでも相当難解なものばかりです。子供たちは、何分の一かに省略されたダイジェスト版を読んでいるのです。翻訳というハンデキャップを負った上に、極端に省略された作品は、もはや、抜けがらでしかなく、抜けがらを読んで「カラマーゾフの兄弟」を読んだと思い込んで、一生を過ごす子供たちが今育っています。やがて子供たちが原作を読みこなす時期に達したとき、もう一度読み直す機会があればよいのですが、大多数の子供たちは、受験体制の中では、抜けがらを読んだままで過ごしてしまいがちです。自分の家庭あるいは学校図書館の書棚に、このような抜けがらがないかどうか一度お調べください。大人は、子供たちがどの「嵐ケ丘」を、どの「レ・ミゼラブル」を読んだかを心に留め、ダイジェスト版を読んだ場合は、やがて原作に巡り逢えるような配慮をすることが必要です。

それにしても子供たちの読む本が、古典文学のダイジェスト版きりないのならいざ知らず、多種多様なる子供の本が出版されている今日、依然として古典文学一辺倒というのも問題があると思います。どうして極端に省略してまで、このように難しいものを子供たちに読ませなくてはならないのでしょう。子供たちのために書かれ、また現代の子供たちが直面している問題を取り扱った優れた創作文学がたくさん出版されているのに。本を読めばどんなものでもよいというのではなく、子供の読書に携わる大人は、子供の本を知り、その内容にまで目を向け、子供たちの反応を見ながら本を選ばなければいけないと思います。

ところで子供たちにとって、本を読むということはどんなことなのでしょうか。県立図書館に取材に来たあるテレビ局のアナウンサーが、「なぜ本を読むのですか」と質問したら、それに対して子供たちは、「楽しいから」と答えました。また「家や学校図書館の本でなく、なぜ県立図書館から借りるのですか」という質問には「なんの束縛もなく、好きな本、読みたい本を自分で選べるから」と答えています。一生を通じて本を読むことが、おもしろおかしい時間を過ごすためだけといった読書の仕方にはもちろん賛成できかねますが、子供たち、特に幼い子供にとっては、「○○のために」といった堅苦しい読み方を押し付けることは、子供たちを本嫌いにさせる原因の一つです。子供たちの「本音」を大切にしながら、本に親しむ習慣をつけ、仕事以外に活字に触れるのは、週刊誌とマンガとテレビのコマーシャルだけ、といった大人にならないようにしなければならないでしよう。

 

 

 


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