教育福島0007号(1975年(S50)11月)-028page

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教育随想

ふれあい

 

中学三年担任雑感

 

中学三年担任雑感

堀金保男

 

一、頭の使い方

 

A組のF君は、父親が病死したために母子家庭である。そのためか、やや気ままで、社会常識に欠けているように思われる。

卒業も近いある日、授業を終えて職員室にもどる私の前に来て、「ハゲ」と言った。四十年間の生活との闘いのため、たてがみどころか開発の進む中通りのようで、貫ろく十分、新任の校長先生といっしょに着任したときには校長先生と間違われ、言い訳をするのに困ったほどの頭である。

中学校では、あだ名のない先生を見つけるのは難しいことである。しかし正面から呼びかける無神経さは何に原因があるのだろうか。カッとする心を静めて無言で通り過ぎ、どうしたものかと考えてみる。友達のいる前で言ったのは……。今まであの生徒となにかかっとうがなかったろうか……。どう考えても、このまま卒業させることは本人のためにはならない、との結論を得た。

数日後、東京に就職する息子を送る父親のような気持ちで、社会という仕組みの中の礼儀や言葉づかいの重要さ身体的欠陥をあげて攻撃することの心得違いを話してやった。何度もうなずいたF君を見て、やはり話をしてよかったなと思い、お互いに気持ちよく別れることができた。

翌年の年賀状に、「元気でやっております。あの日のことは忘れません」と書いてあった。そしてクラス担任でもない私に、今でも毎年忘れずに年賀状を送ってくれる。頭も使いようである。

 

二、点と線

 

各教室で生徒たちを相手とした授業を点とするならば、放課後や休み時間の話し合いは個人的であり等それを通してつながりを持つことから線と言えようか。私の好きな場所はごみ焼却場である。一日の授業が終わったという解放感か、火が彼らを原始時代のいろりでのくつろぎに帰らせるのか、口の重い生徒もよく話をする。

「先生、実はA高校を受験するのだが、私のまねをされると競争率が高くなるので、友達にはB高校と言っているんです」

「先生、昨夜は十二時に自転車で同じ高校を受験するC君の家の部屋を見に行ったら、まだ勉強をしていたので帰ってきてまた一時間勉強したんだ」生徒の生活にも作戦あり、競争あり、しばし無言で聞くだけである。

「先生、僕の家では母ちゃんが内職をしても、一日、六百円にしかならないんだ。卒業したら進学するのはやめて早く就職して働くんだ」

「先生、この次の技術科の時間に板が必要なのですが、板があったら少しもらえませんか」

どれも母子家庭の生徒である。精神的にも経済的にも恵まれていないのかよく相談を持ち込んでくる。教科、道徳、特別活動などの授業の場だけでなく、心と心のつながりを大切にしたい。

 

三、私は不得意です

 

三年生担任教師は、月に一、二回、日曜日に出勤して模擬テストを実施する。その結果に担任教師と生徒とその保護者は一喜一憂する。小学校の教師には想像もできない仕事である。模擬テストの結果によって、それアップだ!ダウンだ!と生徒を励まし、ほっとするのは四月である。テストによる振り分けだと言われても、四十五人の生徒の進路を決定してやらなければならない現実の問題である。

M子さんはA女子高校希望、数学、理科の成績はずば抜けているが、社会科は偏差値四十、結局総合的にはもう一歩努力して欲しい生徒である。

「私は小学校から社会科は不得意であまり興味が持てないし、勉強していません」

不得意であっても努力しなければならないことを話してやった。頭のよい彼女が素直に忠告を守って、不得意な教科を克服してくれることを祈るのみである。

(南会津郡只見町立朝日中学校教諭)

 

 

 


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