教育福島0010号(1976年(S51)04月)-026page
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教育随想
年度末人事を終えて
鈴木 正一
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今年の年度末人事も終わりましたが、いつも思い出としてよみがえることがあります。もう何年になるでしょうか私が中学校長をしておった時のことです。
相当年齢に達して、退職勧しょうをしなければならなかった男の先生がありました。この先生は比較的檀家のすくない地区のお寺の住職であり、まだ教育の終わらない子供さんもあり、今後の生活についても若干の不安はあるのではないかと推測しておりました。ことここに至っては事情をよく説明し御勇退を懇請するより方法はないと思い、校長室に先生をよんでお話をしましたところ、
『校長先生事情はよくわかりました。私は至らない人間ではありますが、一応僧籍に身をおく者であり、人の引導を幾度かわたしてまいりました。いっかこうした時の来るのは覚悟しておりました。力のない私でしたが、校長先生はじめ、諸先生の温かい協力によって、今日まで教員として楽しく暮らしてまいりました。立派な校長先生に引導をわたしていただくことは喜ばしいことです。長い教員生活に終止符をうっことは寂しいことですが、私の力でできる社会教育などに今後貢献したいものです。今後も従前通りの御交誼御指導をお願いいたします。』と。
全く立派な態度に感心させられました。そのあと、今後の生活設計のことなど雑談いたしましたが、先生曰く、
『〈それぞれ分をわきまえておれば不平はありません。上を見ても限りなく、下を見ても限りないのがこの沙婆の姿です。悟れば道は自ら拓けるものです。』まことに淡々とした心境、さすが仏門で修業した人は違うと思ったものです。小物と大物の違いは、己の道を処する大事にあらわれるものと、私はしみじみ感じさせられました。
さて話は一転いたしますが、今年も当地方より新進気鋭の校長として笈を負うて他管内に栄転し、三年ないし四年すばらしい実績を残して、校長として故郷に錦を着て、それぞれ処を得て帰られた幾人かの校長先生があります。そのため年齢も若返り、やる気じゅうぶんの姿に接して、心からもろ手をあげて歓迎いたしました。過般そんなある校長先生から、
『やっぱり故郷はいいですね。知っている先生も多いし、本当に心強いです。本気になってがんばりますので、今後とも御指導下さい。』とあいさつされ、私も『僻地で御苦労様でした。こんどは腰をおちつけ、中堅校長として大いに勉強して下さい。』と激励とお祝の言葉を申しあげた次第です。
ところが地区になれ居心地がよくなるためか、漸次生気もなくなり、勉強しようとする意欲も乏しくなり、苦労は出来るだけさけて通るような態度が見えて来て、学校経営などもマンネリ化して実績のあがらない学校となることがままあります。私の承知している範囲でも、十年以上同一校の校長として実に美事な実績をあげ、まさに有終の美を飾って惜しまれながら、名優がひのき舞台の上で円熟した演技を堂々とやってのけ、拍手かっさいの中、静かにおりる緞帳を待つような校長の姿を思い浮べ、比較して淋しく思うことがあります。今年当地方に着任された校長先生方に、ぜひ、今日の初心忘るべからず、時々初心忘るべからず、老いて後、初心忘れず、年々歳々人かわれど、その処かわるとも、校長としての責任と、リーダーシップを発揮され、教育者として悔いることのない人生を全うされるよう期待したいものです。
(梁川町教育委員会教育長)
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