教育福島0011号(1976年(S51)06月)-020page
理科
一、理科教育の問題点
これからの学校教育は、人間性豊かな児童生徒の育成をいっそう強調しなければならない。このことは、教育課程審議会の「中間まとめ」にも示されている。理科教育においても、このことは重要な要因として考えなければならないものがある。たとえば、一人一人の児童生徒に対し、
○ 自ら考える力を養い創造的な知性と技能を育てること
○ 強じんな意志力を養い自律的な精神を育てること
○ 自然愛や人間愛をたいせつにする豊かな情操を養うことなどが、人間性豊かな児童生徒の育成に対し、理科教育がアプローチしなければならない点であろう。
(一) 探究学習
理科教育が授業を通して自ら考える力、創造的な能力を育成するとすれば問題解決や探究の過程を重視した学習をぬきにしては考えられない。今日、これらの指導について多くの改善すべき点が指摘されている。すなわち、1)探究学習をするには時間がたりない2)探究が教師の指示によりいつも進められている3)探究の過程が形式的に指導されているなどである。
しかし、自然の事象から直接児童生徒が問題を発見したり、教師の演示実験によって、これは不思議だなどと疑問を持ったりして、自ら学ぶ動機づけをすること、対象物をいじくり回したり、先行経験との結びつきに気づいたりして問題解決の方向を見いだすことこれら学習を通して科学的事実や規則性を発見したり、事象を説明するためのモデルを形成したりすることは、探究学習の大きな特徴であり、思考力や創造力の育成に深いかかわりがある。
この点からも、いっそう探究学習に改善を加え、強力に進めていかなければならない。
(二) 強じんな意志力の育成
自然の探究が児童生徒の知的好奇心に基づき、楽しいから調べてみようというのが本来の姿である。しかし、探究はいつも成功するとは限らない。試行錯誤を繰り返しながら問題解決のための努力を最後まで貫き通す強い意志力が必要である。継続観察や長期観測実験方法や装置の改善工夫等に多くの困難を伴うものである。そこでは、教師の励ましの言葉とともに本人の強じんな意志力が不可欠である。児童生徒の発達段階に応じて適度の困難性と意図的な失敗とを経験させることもたいせつな指導である。
(三) 自然愛の育成
人間性豊かな児童生徒を育てるうえで、自然愛を育てる,)とは極めて重要なことである。小学校低学年では動植物の飼育栽培をさせたいものである。直接手に触れたり、世話をしたりすることは自然の観察力を高めるとともに自然愛を育てるうえで大きな役割を持っている。このような感情は直接経験することによってはじめて育成されるものである。自然との接触の少なくなった今日、理科教育の本質である自然から学びとるということを、もっと真剣に考えなおす必要がある。高学年や中学校において、動物の解剖という一見残酷にみえる学習や食物連鎖という生物界の厳しい現実の認識は、自然愛を深めるうえで通らなければならない関所である。このような経験を通して自然界の精ちさや自然の摂理が理解でき、生態系の調和や環境保全への発展も可能となってくるのである。
(四) 指導内容の重点化・教材の精選
日々の授業で、探究学習を進めようとすれば、指導内容の重点化、教材の精選が地域や児童生徒の実態に即して行われなければならない。そして、一つの問題にじゅうぶん時間をかけて学習できるようにすることがたいせつである。重点化・精選については昨年の「教育福島」六月号に述べたところであるが、特に基本的基礎的な内容についての重点化、観察・実験の立場からの教材精選、探究学習からの精選をじゅうぶん考慮する必要がある。
以上のような問題点をふまえ、本年度の理科教育の重点として、
○ 指導内容の重点化・教材の精選を更に進め、指導計画の改善を図る。
○ 児童生徒が学習に興味をもち、自ら考え、基礎的知識を獲得し、創造的な能力を伸ばすため、探究学習の指導に工夫を加え、いっそう効果をあげるようにする。の二点を中心に取り上げた。
二、指導内容の重点化
(一) 基本的な概念との関連においていうまでもないが、重点化と精選には、いろいろな立場があり、教師の理科についての指導理念によっても異なるものである。したがって、これから述べることもその一例であると捕らえてほしい。
重点化を図る一つの手だてとして、中学校第一学年の『天体に関する内容』を学習指導要領によって具体的に述べてみる。取りあげた項目は、第二分野
(3)「地球をとりまく宇宙」である。
第二分野の基本的な科学概念は、学習指導要領第二分野の目標の(2)、(3)、(4)の中に記述されているが、この天体に関する基本概念は、主として(3)の中に記述されている。
(3)で取り上げられている概念は、時