教育福島0012号(1976年(S51)07月)-040page

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図書館コ−ナ−

 

地域・家庭文庫の紹介(1)

−県北編−

 

人間形成におよぼす読書の役割の大きさについては、すでに多くの人の指摘するところである。古今東西の読書論の類をひも解いても、一冊の本との出会いが、彼のその後の人生に決定的なものであったことが述べられている例は、枚挙にいとまがないほどである。

ところが一方、現在の私達を取りまく文化環境という問題を考えてみると驚くほどの雑多でわい雑な混乱と、商業主義にのみ血道を上げているとしか思えないような擬物に満ちた偽物文化のはん濫に気づくであろう。出版文化の世界もまたしかりである。真に価値のある、真に出会ってほしいものが埋没してしまっていて、私達の身近にない。表面は一見華やかで、豊かさに満ちているが、本物との出会いの機会がごく限られてしまっているというのが実情である。そういう中にあって、地道ながらも子供たちに良い本を読ませたいと願い、それぞれの地域で自宅を解放し、あるいは集会所などに場所を求めて活動を続けているのが、地域文庫や家庭文庫である。ポストの数ほど図書館を、という言葉が近年よく言われるようになっているが、現状はまだまだである。一番望ましいのは、公の読書施設が数多く住民の身近にあることである。にもかかわらずこれらの文庫の存在は、公共の施設の乏しさを補うため、という色彩が強い。昭和四十九年十二月現在の調査では、本県内にこれらの文庫が約四十か所ある。そのうち約半数の二十か所が福島市をはじめ、二本松市や伊達町、国見町などの県北地方に存在する。その後、どんどん増加しているし、読書会から発展したものや私達のキャッチできなかったものを数えれば、おそらく三十か所位にはなるであろう。以下二三の文庫を抽出し、その活動について逐次紹介していきたい。

○チュ−リップ文庫(福島市)

一主婦の家庭文庫としてスタート。県内文庫の草分け的な存在である。蔵書冊数約二千冊をようし、土曜日の午後の貸出し日には近所の子供たちから大人まで五十人以上の人達がどっとおし寄せるという。“今の子供たちはテレビばかり見ていて本を読まなくなったというが、とんでもない。身近に、魅力のある本が数多くあれば、子供たちは必ず本好きになる。そして本を読む子の心の豊かさややさしさというものを、最近しみじみと感じるようになった。”と話していた。また“本当は文庫が繁盛するよりも、子供のための図書館がもっとあちこちに欲しい。そして、子供の図書館は建物より蔵書数よりそこに働く人がたいせつだと思う。”という鋭い指摘は、現代の文化状況の本質を見事にえぐっている。

○国見町親子読書文庫(国見町)

県立図書館が県内数か所に、親子読書文庫のモデル地区を指定したが、その一つとしてスタートし、発展したのがこの文庫である。公的機関の援助と地域の人々のあたたかい協力がマッチして、すばらしい活動を続けている。子供だけではなく、大人への働きかけも成功し、個人宅にもかかわらず単なる読書施設としてだけではなく、コミュニティーセンター的な活動としても大きな役割を果たしている。

○若宮子ども文庫(二本松市)

文化環境の貧しさや、地域の無関心等々の厳しい条件のもとでスタートしたが、近年ようやく長年の粘り強い努力が実ろうとしている。読書のほか、紙芝居や人形劇等々多彩な催しは、子供たちに大きな魅力となり増加の一途をたどっている。だがまったくの個人的な努力なので、これ以上利用者が増えたらどうしょうかという悩みが常にあるという。

 

読書に親しむ子供たち

読書に親しむ子供たち

 

チューリップ文庫の子供たち(福島市)

チューリップ文庫の子供たち(福島市)

 

 

 


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