教育福島0012号(1976年(S51)07月)-041page

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やさしい教育法令解説

 

「岩教組事件」に係る判決について

 

去る五月二十一日、最高裁大法廷において、二つの重要な判決が生まれた。

「永山中学校事件」と「岩教組事件」である。いずれも、昭和三十六年十月二十六日に実施された、全国中学校いっせい学力調査をめぐって生じた事件であることは、周知のとおりである。

「永山中学校事件」の判決は、「本件学力調査には、手続上も実質上も違法はない。」と、従来下級審段階で争いのあった学力調査をめぐる問題について結論を下した。

他方「岩教組事件」では、非現業の地方公務員の争議行為を禁止した「地公法三十七条一項、六十一条四号の各規定は、あえて原判決のいうような限定解釈を施さなくてもその合憲性を肯定することができる。」とし、昭和四十八年四月二十五日全農林警職法反対闘争で示された見解が今回も踏襲された

今回は、「岩教組事件」に係る最高裁判決について、その事実の概要と判決の要旨を紹介する。

一、事実の概要

岩教組は、岩手県下各市町村教委の学力調査の実施に反対し、その実施を阻止する目的をもって、傘下組合員である公立中学校教職員をして争議行為を行わせる闘争方針案を企画し、機関決定を経た。被告人らは岩教組の役員であるが、他の本部役員らと討議した結果、全組合員相結束して右調査の実施に関する職務の遂行を拒否し、その調査の実施を阻止すべき旨を記載した指令書や指示書を発出し、更にオルグ活動として、各中学校長に対し口頭をもって右指令・指示の趣旨の実行方を慫慂した。

被告人のこれらの行為は、いずれも地公法六十一条、三十七条一項に該当するとして起訴されたものである。(なお、道交法違反の事実については省略する。)

二、判決の要旨

(一)地公法三十七条一項の争議行為等禁止の合憲性

地方公務員も憲法二十八条の勤労者であり、労働基本権の保障を受ける。しかし、地方公務員は、その地位の特殊性(地方公共団体の住民全体に対して労務提供義務を負うという意味)と職務の公共性を有するものであり、地方公務員が争議行為に及ぶことは、このような地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある。また勤務条件については、法律及び条例によって定められ、その給与は地方公共団体の税収等によって賄われることから専ら政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきであり、私企業の労働者の場合とは異なる。更に争議権は、議会における民主的な手続によってされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれもある。他方、労働基本権の制約に見合う代償措置としては、地公法上、国家公務員の場合とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがされているほか、人事院制度に対応するものとして、人事委員会又は公平委員会が設けられている。そして、これらは、中立的な第三者的立場から公務員の勤務条件に関する利益を保障するための機構としての基本的構造をもち、かっ、必要な職務権限を与えられており、代償措置としての一般的要件を満たしている。(もっとも、公平委員会については、問題が認められないわけではないとされている。)

以上の理由で地公法三十七条一項の規定は合憲である。

(二)地公法六十一条四号の罰則の合憲性争議行為の遂行を共謀したり、そそのかしたり、あおったりする行為は、争議行為の原動力換言すれば中核的地位を占めるものである。それ故、法がこれらの行為を社会的に責任の重いものと評価し、このような行為をした者に対して、違法な争議行為の防止のために特に処罰の必要性を認め、罰則を設けることにはじゆうぶん合理性がある。また、地公法六十一条四号の規定につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別し、更に共謀、あおる行為等についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は、可罰性を有しないとする解釈は是認できない。

(最判昭四四・四・二都教組判決は変更された。)

(三)本件地公法違反罪の成否

被告人らが、指令、指示を発出伝達してその趣旨の実行方を慫慂した行為、またオルグとして各中学校長に対し前記指令、指示の実行方を慫慂した行為は、いずれも地公法六十一条四号に該当する。

 

 

 


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