教育福島0013号(1976年(S51)08月)-038page
福島県教育センターから
児童と両親と教帥への教育相談
−登校拒否児の母親からの手紙をめぐって−
一、母親からの手紙
長い間、たいへんお世話になり、本当に有難うございました。おかげさまで○○も毎日元気に通学しております。あの当時と比べますと、別人のように元気に明るくなった○○です。これも皆諸先生方の御指導のたまものと、深く深く感謝しております。
先日、二学期になって、始めての参観日に出席して参りました。一学期のころは、答えがわかっていても手をあげようとせず、授業中一度も手があがらなかった○○でしたのに、得意な学科の授業でもあったせいで、よく手があがるようになり、発表も堂々として、私は涙が出てしまいました。お友だちとも仲よくやっていました。このころは、学校から帰りますと、毎日のようにお友だちと遊びに出かけます。
つい何か月か前までは、私の姿が少しでも見えないと大騒ぎして、宿題の作文にまで、「ぼくのお母さんは、ぼくが学校からかえると、どうしていないんだろう……。」などと書いておりましたのが、最近は親よりもお友だちの方がよいようで、全然別行動です。腰ぎんちゃくのようにいつも連れて歩いておりましたのに。たまに親子で出かけようと誘っても、「ぼくは○○くんと遊んでいるから……。」とこうです。親類の家にも一人で泊まりに行くようになり、あまりの成長にびっくりしているしだいです。土曜日になると、荷物を自分一人でまとめて、自転車でさっそうと出かけて行ってしまいます。
本当に手がかからなくなり、うれしいやら、ちょっぴり淋しいやらで複雑な心境です。時々宿題を忘れますが、平気なもんで、「休み時間にやるんだ。」とか言って出かけます。本当に別人のようです。
週一回のお習字も休まず通っております。「早く起きなさい。」「早く食べなさい。」「お便所は?」「遅刻するわよ。」「気をつけて行ってらっしゃい。」だったのが、今は、「行ってらっしゃい。」だけになりました。朝も起こさないことにしてみました。遅れそうになっても、次の仕たくが手早くすませられるようになり、また一つ成長がみられました。(以下略)
この手紙は、登校拒否のために教育センター教育相談室を訪れ、四か月間週一回ずつの心理療法を受けた小学校二年生(男)の母親からのものである。
この子供が、喜んで登校するようになった背景には、次のことが考察される。
○父母がしつけのふじゅうぶんであったことを認め改善を図ったこと。
○担任が学級内の温かな人間関係を育て、治療的集団を作ったこと。
○家庭と学校が相互に緊密な連絡をとってきたこと。
特に親子関係で、両親の愛情の欠如が、子供の問題行動に大きな影響を与えていることに注目する必要がある。
二、登校拒否児を作らない方法とその扱い方
登校拒否児を作らない指導こそが最良の指導法と考えられる。しかし、いかに手を尽くしても家庭的問題等が原因となって、登校拒否が生じてしまう場合がある。そこで、登校拒否の対策指導を記してみるので参考にしてほしい。
(一) 学校で登校拒否児を作らないためにどんなことを考えたらよいか。
○ 学級で孤立している子供に目を向けること。
○ 子供の心証をよくする言葉づかいをすること。
○ 成績物には励ます配慮をすること。
○ 子供の個性的な特長の発見に絶えず努力すること。
○ 子供の問題行動の背景を慎重に分析すること。
(二) 学級に登校拒否児がでたらどんな対策をたてたらよいか。
○ まず第一に泣こうとわめこうと母親(または父親)に学校まで連れてこさせること。
○ 家庭でどうしても押し出せないとき、担任が迎えに行くこと。最初の十日間が決め手である。
○ 登校拒否の程度が強くなり、心気症的な病状を訴えるときは、登校刺激をいっさい加えないこと。ガッコウのガの字、ペンキョウのべの字など口に出してはいけない。
○ 学校や勉強のことをチラリと気にする態度になってきたら、友だちを遊びにやること。