教育福島0014号(1976年(S51)09月)-011page
三、造形的な見方、考え方をたいせつにしながら指導を進める。
図画工作科の具体的目標に「絵にあらわす、デザインをする、工作をする鑑賞をすることにより、造形的に見る力、構想する力をのばす。」ことがあげられている。この造形的に見る力や構想する力(考える力)は、各題材の中に具体化されているわけである。
(一) 造形的な見方の指導
造形的な見方とは、対象のもつ造形的な特徴をつかみとる見方であり、美しさとか、感情やふんい気などを感じとる見方、さらには生命感まで感じとる見方をさしている。
観察に基づく絵画の指導において、「よく見なさい」「もっとしっかり見なさい」と教師がくりかえし助言を与えている例がよくある。対象を見せる場合、「何を」「どのように」見るのか、具体的な見方の指導がなければ適切な助言といえない。例えば、
・ 対象の形を輪郭線でとらえる見方
・ 全体と部分の比例をとらえる見方
・ 対象の量感を明暗でとらえる見方
・ 色の変化を他との比較によって気づかせる見方
などいろいろ方法があるので、見方の指導を適切に行い、児童生徒の目と心でとらえさせるようにする。
(二) 造形的な考え方の指導表現活動を進めるには、構造する力(考える力)が大きな要因となっている。製作する前の段階において、頭の中で「何を」「どのように、どんな順序で」などと構想をはたらかせることや表現過程において、構図、色、形などについて考えることが、造形的な考え方を育てる場面と思われる。これらの指導を進めるうえで、次のような点に留意しなければならない。
1) 構想の段階においては、低学年の児童の場合は描いたり、作ったりしながらイメージ化するのが普通であり、高学年の児童や中学校の生徒の場合は、構想をまとめてから表現活動に入る。したがって、造形的な考え方は高学年から中学校の段階で重視するのが適当である。
2) 表現の過程においては、色・形・構成などの造形要素や技法について考えながら表現活動が展開するので一人一人の児童生徒に応じて個別指導で進めるようになる。
3) 一人一人の児童生徒の見方、考え方をたいせつにし、教師の主観を押しつけたり、高度なものを求めたりしないようにする。
四、工芸とデザインの関連をじゅうぶん検討し、統合的な指導をする。
工芸は、一人一人の生徒が直接手をくだして、生の素材と取り組み、ものを計画し、作りあげるところに価値がある。各学校においても、学年段階を考慮しながら適切な題材を計画し、指導の成果をあげているところであるが工芸指導の意義を再確認して、その充実を図ろうとするものである。
工芸製作に伴うデザインは、デザインの中に示してある使用のためのデザインと一貫して扱うことになっている。デザインをする計画の段階を重視し、生徒に自分の構想が実現できる工芸製作の喜びを味わわせるように留意したい。
▼デザインと工芸との関連
五、適切な資料を提示し、生徒の感受性をたいせつにして、鑑賞能力・態度を育てる。(中学校)
美術の鑑賞は、ひたすら作品に没入し、作品の奥にひそむ造形上の秘密を発掘することであるといわれている。授業の中では、表現活動に付帯して行う鑑賞と独自の時間を設定して行う鑑賞とがあるが、常時これらの鑑賞活動を通して鑑賞のし方や鑑賞眼が高まるよう計画と実践が望まれる。ややもすると表現活動に多くの時間が当てられるため、鑑賞が軽視されやすい点が心配されるのである。
生徒の鑑賞能力や態度を育てるために、特に次の点に留意する。
(一) 生徒の感受性をたいせつにした指導過程を組み立てる。
(二) 鑑賞活動の日常化を図る。
鑑賞活動が、授業の中だけで終わることのないように留意していきたいものである。ほとんどの学校が校内に鑑賞コーナーを設けているが、その使い方にも更に工夫をしていきたい。
鑑賞資料も、ポスターやカレンダーなど身近なところに多くあるので、組織的な収集方法を用いることもできるし、収集した資料を生徒に親しみのある掲示をすることによって、鑑賞指導の成果をあげるようにする。
以上、授業の充実に関する主な観点にとどまったが、施設設備についても創意を生かした整備と活用が望まれる。