教育福島0014号(1976年(S51)09月)-040page
図書館コーナー
地域・家庭文庫の紹介(3)
県中編
郡山市図書館の昭和五十年度貸し出し図書冊数は二十四万冊、そのうち、「自動車文庫」「貸出文庫」「こども文庫」の状況をみると、全体の半数近い十一万七千冊となっている。図書館はいま大きく変わりつつあり、従来のように図書館という建物に来館する人々にサービスするだけでなく、館外に出て本を貸し出しすることにも積極的になってきている。これは図書館に遠い人々のためでもあるが、やはり本は身近かにあることによって読書しやすくなり、またグループ内の(或は近隣の)読書が相互に刺激しあって読書意欲がより高まっていくためでもある。
郡山市図書館の館外システムをみると、自動車巡回による個人貸し出し(ある団地などに停車し個人単位で貸し出す方法・十か所・月二回)と、団体貸し出し(読書会やグループ単位に五十冊5百冊程度・約五十か所)に分けられる。さらに自動車にたよらず、読書会の人が直接来館して、一定冊数を選択したものを貸し出す「貸出文庫」があり、この中には子供の本を中心とした「こども文庫」(約十五か所)も含まれている。
自動車による団体貸し出しも、本館で貸す「貸出文庫」「こども文庫」も本質的には同じものであって、特定の個人の家庭の一部(玄関とか廊下、あるいは部屋)に書棚を置き、近所の子供や大人に随時貸し出すやり方で、世話役はその家の主婦等が担当しているといった、ボランティア活動に期待しているものである。特に「こども文庫」になると気苦労は容易でない。やはり子供が好きで本が好き、家庭(特に主人)の理解と協力があり、そして読書に対する使命感のようなものを強くもっていないとこの仕事は永く継続してはゆかないだろう。
以下「こども文庫」を中心に、郡山市の例の一部を紹介してみる。
○緑町文庫(住宅地帯)
「ここはいいなあ。寝ころんで読んでもしかられないし、勉強しろともいわれないし…」とある子供の話。そんなところがこの文庫のふんい気である。昭和四十四年、図書館の本三十冊の貸し出しを受けてはじめたが、今ではもう一千冊になった。(図書館分は三百冊)毎週土曜日の午後の貸し出し日は百十人の子供でごった返しである。世話役の奥さん(小泉郁子さん)と友達の奥さん三人も交替で手伝ってくれるがてんてこ舞いである。読まれるのは幼児の絵本から中学生の読物まで入っているが、中心はやはり小学三〜四年のものである。仕事のあい間をみて、紙芝居や指人形をみせたり、更に年間行事としてもちつきやクリスマスなどを折りこんで子供との心の触れあいを重視している。経費はいっさい小泉さんの負担だ。(図書費、行事費)御主人も理解どころか、大いに協力してくれているので、永続きしている秘密はここにある。今年の夏、ある財団法人から認められて児童書五十冊を寄贈してもらい大いに助かったという。
○丹伊田文庫(農村地帯)
この文庫の館長(?)は中学一年生。そして手伝いの姉は中学三年生。ともに大人の手を借りずの独立自尊。事の起りは、父親が公民館に勤めていた関係もあって、なんとか子供たちに良書をと願い、図書館及びわが子と話し合った結果、四十八年に発足、以来四年目である。ところは市内とはいっても、山深い阿武隈山脈のふところ西田町丹伊田の星君の家である。図書館から借りた三百冊の本の整理、貸し出しカードの記入、読みたい本のまとめなどいっさいこの“小さな館長”が処理している。貸し出し日は特に決めてなく毎日であるが、よくしたもので“小さな館長”がいる時だけ借りにくるようだ。そばで見守っている父親の感想を問うと「やはり読書意欲は以前より強くなりました。子供の勉強をよくしょうという目的はもちませんが、確かに良くなっているようです。学校図書館よりおもしろい本があるというし、第一ここへ来るのを楽しみにしているところが良いですね。」昨年八月五日附け「朝日小学生新聞」のトップ記事になり、近所から好感をもって迎えられ評判になっている。
自動車文庫(あさかの2号)の貸し出し風景