教育福島0015号(1976年(S51)10月)-012page

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うまでもないところであり、なかでも医学的な問題については、医師の取り扱う領域である。病院やその他の医療機関との密接な連絡をとったり、また教育相談の専門機関との協力体制を強化して進めるべきものである。

現在、学校においては、教育相談室を設置したり、相談教師を配置しているところ、また、学級担任を中心にして、学校全体で教育相談に取り組んでいるところもある。いずれの場合にしても、学校で行う教育相談の限界をよく理解し、専門機関との連けいを保ちながら、生徒の悩みや障害を解決するように配慮すべきである。

 

二、学級(ホームルーム)における面接相談の理論と方法

 

現在中学一年のA子が六年の三学期のことであった。授業中に私語が多く担任から強くしつ責を受けたことが誘因(原因ではない)となって、担任が嫌いになり、登校しないことがたび重なるようになってしまった。本児の家庭は、建築業を営む父・母・八つ年上の姉との四人構成であり、A子は末っ子で甘やかされ、可愛いがられて育てられたために、耐性に欠けたぜい弱な性格になってしまっていたようである。

欠席が多いまま小学校を卒業し、中学校に進んだが、日増しに不眠の夜が多くなり、学校に行くことがますます苦痛になってしまった。ある朝、母親から今日はどうしても学校に行くようにと言われ、やっとの思いで昇降口までたどりついた。その時、教室に入るか入るまいかとぐずついているA子の姿を見つけた担任は、不用意にも「帰りたければ帰れ」と、ついしかってしまったのである。A子にとってその言葉は、まことにきびしく残酷なものであった。この時、A子の心情を理解し適切な指導をする教育相談的配慮が担任にあったならば、担任とA子の人間関係は望ましいものとなり、教育センター相談部での三か月以上にもわたる心理療法を受けなくても、登校拒否の改善が図られたかも知れない。この配慮こそ、「いつでも、どこでも」のスローガンが示すとおりの、学級担任が行う面接相談である。

(一) 相談的な学級(ホームルーム)担任

学級担任による教育相談とは、一パーセントにも満たない問題生徒を対象とするのではなく、学級内の比較的軽度な問題を持つ残り九九パーセントの生徒たちの相談に応ずることである。

すなわち、一人一人の生徒の持つ悩みや相談(主として学習や進路、性格友人関係など)について、個別的に、あるいはグループで応ずることである。言葉をかえて言うならば、ほとんどすべての生徒を対象に、生徒が自分の問題を自ら進んで解決できるような場を作り出し、教師と生徒がより深く人間的に触れ合うことによって、望ましい人間形成を図ることとも言える。

次に一人一人の生徒を生かし育てる教育相談的な担任像のいくつかをあげてみる。

(1)教科を教えることよりも生徒を育てることにより関心を持つ担任

(2)生徒の感情をたいせつにする担任

(3)人と人との関係で生徒の行動が変わることを知っている担任

(4)いつも行動の背後にある条件や過程を理解しようとする担任

(5)生徒の動きに感動が持てる担任

(6)生徒の独自性をたいせつにする担任

(7)学級のメンバーの相互作用を重視し生かそうとする担任などがあげられよう。

急激な社会状勢の変化にともない、現在の中高校生の間には三無主義・四無主義の風潮がひろまりつつある。なぜこのような風潮が生徒たちの間にひろまって行くのか、それは人間性不在の教育によるものであろう。生徒の心を理解し指導する努力がなければ、この解決は極めて困難である。そこで、心の触れ合いをより重視した教育、すなわち教育相談的な考えを生かした教育の実践が、改めて再認識されなければならない。

(二) 教育相談を進める基本的態度

教育相談は、生徒理解につきるといわれる。したがって教育相談は、相談以前の人間関係がよりたいせつである。さまざまな機会を通して教師と生徒がより多く接触を深め、個別的・継続的なかかわりを持つことこそ、学級一ホームルーム一担任の教育相談への基本的な構えといえよう。その基本的構えをより強力に進めるためには、次のことが守られなければならない。

(1)一人一人の生徒をかけがえのない存在と認める。

(2)生徒の純粋な人間性を愛し正しい生徒理解に努める。

(3)相談に当たっては受容的な共感的態度で当たる。

(4)教師と生徒との間に自由に話せる信頼関係を樹立する。などとなる。

通常学校で行われる相談には、定期相談、チャンス相談、呼び出し相談、自発相談、グループ相談等がある。言うまでもなく、自発相談が最も望ましい相談形態であるが、現行の中高校における相談は、自発的、自主的な来談が極めて少なく、教師が呼び出す相談がほとんどである。また、定期相談にしても、形式的断片的であり、一貫性に乏しいという声も時おり耳にする。自主来談を増すためには、まず定期相談を計画的継続的に実施すること、相談に応ずる際には、どんなささいな問題に対しても誠実な態度で当たることがたいせつである。こうすることによって、先生は私たちの問題を本当に心から、真剣になって聴いて考えてくれるという信頼感が生まれ、どんどんといろんな相談が自発的に持ち込まれるようになる。一般にわれわれ教師は、あまりにも即効性を期すあまり、相談

 

 

 


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