教育福島0015号(1976年(S51)10月)-013page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

が説諭的になりがちであるが、教育相談ではあくまでも傾聴の態度を失なわないように留意し、できるだけ自主性の伸長のために、じっくりと話を聞くように心掛けなければならない。もちろん相談内容の秘密保持にじゅうぶんな配慮がなされなければならないのは言うまでもない。

 

三、教育相談を生かした学級(ホームルーム)経営

 

一般的に見て、教育相談とは心理テストや面接技術、あるいは専門的な心理療法を使って、特定の部屋で相談活動をすることと考えられてきた。しかし、これは専門家の行う教育相談であって、学校において学級(ホームルーム)担任が実践する学校教育相談は、日常の教科指導や教科外指導のなかで行われる点で前者とは大いに異なる。

面接の技術がいかにすぐれていようとも、それだけで学校の教育相談は進められるものではない。すなわち、教師と生徒や、教師と父兄との人間関係を重視し、生徒一人一人を人間として尊重し理解する心構えがたいせつにされなければならない。結論づけて言えば、学級(ホームルーム)担任による教育相談は、技術で行うものではなく人間性で行われるべきものである。(ただし技術の研さんは、まったく不必要であると言うことではない)

このように考えてみると、学級担任の行う教育相談活動は、望ましい学級経営そのものといっても決して過言ではない。そのような観点から、教育相談的考えを生かした学級(ホームルーム)経営についての留意点のいくつかを紙数の許すかぎりのべてみたい。

(一) 担任をよりよく知ってもらう

おのれを知り相手を知れば百戦危うからずと言う。学級(ホームルーム)経営においても、担任みずからがおのれを知り、さらには担任する生徒のすべてを知れば、よりよい学級(ホームルーム)経営が可能であることは、火を見るよりも明らかである。しかし一般にわれわれ教師は、生徒をよりょく知り理解を深めようとあまりにも性急になり過ぎ、ときとしてその構えが一方的なものになってしまうことがある。その結果は全く無益なものとなる。すなわち、生徒のことを一方的にあの手この手を用いて探り出そうとする構えば、生徒たちの心の中に鋭い警戒心を呼び起こさせるとともに、敵か味方かを用心深くかぎわける弱者の直感力によって弁別され、強い反発を生み出してしまうからである。

生徒の側だけを一方的に知ろうとする前に、教師自らの裸の姿を生徒の前に提示し、教師自身を生徒たちにまずわかってもらうようにしなければ、生徒は決して心を開いてはくれないものである。教師の生い立ちや家族のことくらしの中の喜びや悲しみ、教師の研究や趣味などを大いに生徒に向かって話すべきである。このような教師の姿勢は、おのずから教師に対する生徒の反発を和らげると同時に、親近感を増加させ、よりよい人間関係を作り出し理想的な教育の場の醸成が図れるものである。人間同士の理解は、一方的なものではなく、あくまでも相互的であることを熟知し、それを学級(ホームルーム)経営に実践していきたいものである。その実践こそ、教育相談的な考えを生かした学級(ホームルーム)経営の第一歩である。

(二) 生徒の見方を補正する

同じ生徒を見て「とても元気があり明るく活発ないい生徒だ」と言う教師もいれば、「少しも落ち着きが無く出しゃばりだ」と評価をする教師もいる。

人の評価は、いわゆる第一印象によって大きく左右されるが、この第一印象は相手の表現する言動に観察者の主観が強く加わり、形成されるものである。

主観は他方にその人の価値観と深くかかわっている関係上極めて独断や偏見を生み易いものである。したがって学級(ホームルーム)担任一人だけの観察では、担任個人の感情が生徒に投映され、意味づけられるので、誤った生徒像を持ちやすいと思わなければならない。そこで複数の観察者の目で補正し合うことが必要になる。多角的な観察は、誤った生徒理解を排除し、偏った生徒理解によって生ずる不適切な指導を回避することができるからである。

また、現行の中高校において、担任は原則として生徒の側からは選択選別は不可能であり、少なくとも一年間はその関係は固定されてしまう。この点から見ても、改められることのない誤った生徒評価は、生徒の人格の育成を大きく阻害し、ますます担任教師と生徒の関係の悪化を促進させていく。

人間対人間の触れあいのある学級(ホームルーム)を作りあげるために、常に正しい生徒評価をするよう努力したいものである。

(三) 場面を変えて生徒を見る

教室で学習する姿は、その生徒のある一面を表わしているに過ぎない。しかし、ともするとわれわれ教師は、それだけが生徒のすべてであるように思ってしまいがちである。当然学校教育においては教科学習がその大部分を占めているので、この偏りはまぬかれがたいことかも知れない。だからこそ休み時間や昼食時、清掃時やロングホームルーム時、学習時や係り活動の時、あるいはクラブや道徳の時間、部活動などの多彩な場面での生徒を知る必要がある。

学校での生徒の行動は、端的に言ってその生徒の1/3の面だけの行動に過ぎない。残る2/3は、家庭における行動と生徒の交友関係の中にある。このような意味から、家庭訪問を実施したり、生徒とともに校外学習を行ったりしてみて、それらの場における生徒の姿を知ることがたいせつである。多角的観察に加えて多面的観察があってこそ、真の生徒理解がなりたつことを銘記し

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。